第27話 第五章 勘違いと忘れてること。(3)
第五章 勘違いと忘れてること。
大きなゾウの滑り台が印象的な公園。
私はいつも羨ましいと思いながら見ていた、あの三人を。
「これから俺達は、何があってもずっと一緒だ」
威勢の良い男の子がくさい台詞を口にする。
「うん、そうだね、相棒の言うとおりだよ。僕もその意見に賛成だよ!」
「相棒って、ずっと俺のことそう言ってるよな」
「おかしいかな?」
「いや全くもって、おかしくないぜ!」
少し気の弱そうな男の子が、威勢の良い男の子と拳を合わせて、ニコニコと笑い合っている。
「もう、二人ばっかりずるいよ。私もその約束に入れて。それに相棒は私の方でしょ?」
そこに入っていく、とても寂しがり屋な女の子。
「よし、しーちゃんも俺達と約束したからにはずっと一緒だからな。あっ、でも、相棒が二人いるのはおかしくないか?」
威勢の良い男の子が寂しがり屋な女の子にそう言うと、少女はホッとしたようにえへへっと微笑む。
そして、三人の視線は、何故だか、いきなり私に向けられる。
威勢の良い男の子が、声を張り上げて、私に……
「おーい。お前も、もう俺達の仲間だからな」
その言葉を聞き、恐る恐る三人に近づいていく。
「わ、私…」
「お前、いつもこの公園で俺達のこと見てるよな」
「え…わ、私は……ごめん…なさい……」
私は怒られたのかと思った。
しかし、彼は…
「さっき言っただろ? お前も、もう俺達の仲間だからな!」
「え……」
その時の彼の表情に私は心をときめかせた。
あとに分かることだけど、これが恋心だった。
「う、うん……」
「名前……なんて言うんだ?」
「ゆ、ゆ……め……」
当時、親以外の人とは、話なれていなかった私は、言葉を詰まらせながらも、何とか口にする。
しかし、最後まで自分の名前を言う前に彼が……
「なるほど、ゆめって言うんだな! よろしくな!」
「よろしくね、ゆめちゃん。僕は清って言うんだ。きっくんって呼んでくれ」
男の子二人が、挨拶をしてくる。
それに続いて…
「私は紫苑。しーちゃんって言われてる、よろしくね」
「う…うん…」
「おーい、あんたもう帰る時間だよ」
「あっ、姉ちゃん!」
制服を着て、ランドセルを背負ったお姉さんが現れる。
「ねぇねぇ、姉ちゃん! カメラ持ってない?」
「え? 何、どったの?」
彼は、私達三人を抱き寄せて言った。
「撮って欲しいんだ!」
それは多分、特に深い意味はなかったんだと思う。
「しょうがないわね…四枚撮るよ? ほら、笑って…」
そのお姉さんは、インスタントカメラを取り出して、私達のことを撮ってくれる。
「はい、これ、一人一枚ずつ」
「うおおおおおお、すげええええええ!」
興奮している様子の彼。
「これが、俺達がずっと一緒だっていう証拠になるな!」
「そうだね」
「うん」
私以外のみんなは彼の言葉に返事をしていた。
だけど…私は恥ずかしくて、言葉を出すことが出来なかった。
「じゃーな、みんな。あっ、ゆめちゃん、明日もここで集合な」
私は、コクリと頷き、返事をする。
そして、それを見た後、彼はお姉さんに連れられて帰って行った。
それが彼との始まり。
だけど…この時の私はすでに彼との関係の終わりを考えていた。
三日後、引っ越すことを知っていたから。
せめて彼の名前は聞きたかった。
……それさえも、当時の暗い私には、結局できなかったのだった。
でも、今考えるとたったの三日間しか一緒に遊んでないのに……小さな頃の想い出の三日間はすごく強く。
今の私があるのは、あの想い出のおかげだ。
私が暗い、根暗な人間から……明るくなれたのは……全部、彼の……
高校一年生の春。
そんな彼を追いかけて、私は想い出ある、この街に戻ってきたのだ。
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