第21話 第四章 友情と愛情。(1)
第四章 友情と愛情。
「昨日はごめんなさい。私にしては少し熱くなりすぎたわ…」
学校に着くと、唐突に神無月の謝罪が始まった。
俺は何と反応するのが正解なのだろうか?
きっと、神無月があれだけ怒った………いや、怒ったっていうのは違うな。
あれだけ悲しんでいたのには、大きな理由があるはずだ。
そして、そんな感情を引き起こす起因となったのは間違いなく俺だ。
やっぱり……忘れてるのだろうか。
あるいは―
「あっいや、俺の方こそ…ごめん」
何気なくそう返す俺。
なるべく普段と同じような態度をとる。
しかし、神無月の目は誤魔化せていなかった。
「先ほど、謝っておいて、申し訳ないのだけれど……あなた、今、どうして自分が謝っているのか理解出来ていないでしょう?」
ギクッとする。そりゃそうだ。どう考えても、丸わかりだ。
ただの平謝りにしか思えないはずだ。
でも…
「確かに。どうしてなのかは分からない」
神無月は少しだけ、怒りを込めたような口調で言う。
「ほら、そうで―」
俺は神無月の言葉を遮り、言葉をつなげる。
「ただ、俺が神無月を悲しませたことは理解している。だから謝った」
誠心誠意、真剣にそう告げた。
「はぁ……」
神無月は俺のその言葉に呆れたようにため息をつく。
「本当にあなたって、呆れるほどお人好しよね」
「それ夢風にも言われたんだが…」
「あら、そうなの。夢乃にもそう言わせるなんて、本当にあなたその性格何とかした方がいいわよ? でないと、面倒事に巻き込まれると思うわ」
なんだその現在進行形の俺の状況は。
「余計なお世話だよ」
もう色々と手遅れだし。
「そう? 人の忠告は素直に聞くべきだと思うのだけれど」
「勘違いしないでくれ」
「勘違い?」
神無月はきょとんっと首をかしげている。
「ああ、俺はお人好しなんかじゃない。そもそも今回の件だって、神無月を泣かせたのは俺のせいだし…」
「だから、そういうところがお人好しだと言っているのよ」
俺は机をドンッと叩き、神無月に近づく。
「ちょっと、ち、近いわよ…」
それはもう、髪の毛先が触れ合うくらい近くに。
「俺はお人好しじゃない……神無月、お前のことが大好きだからだ」
その瞬間、教室の時が止まった。
「えっ?」
目を見開いて、唖然としている神無月。
「ん?」
周囲の視線がおかしいなと思う俺。
「え、えーと、水無月くんって大胆なんだね……」
苦笑いで、夢風が俺の前に現れる。
ハッとして、俺は急いで神無月から距離をとる。
待て、俺無意識で今なんて言った?
大好きって神無月に言ったか?
いやいや、まさかそんなこと言うわけないよな。
……………………………………………………………絶対に言った気がする。
「ち、違うんだ! その恋愛感情じゃなくて、友達として好きってことで! 全然、神無月のことなんて女子として見てないというか……なんというか……。と、とにかく違うんだ! 誤解なんだ! 無意識で言っちゃったんだ!」
クラスメイト達のニヤニヤとした視線がすごく痛い。
「確かに、紫苑と水無月くんって最近、かなり仲がいいからね。無意識、でそう言っちゃうのは仕方ないことだよね」
悪意のある微笑みを向けてくる夢風。
無意識という言葉をやたらと強調して強く言っていた。
夢風のそんな言葉を聞いていた、クラスメイト達は全員思っただろう。
異性として、好きなんだろ? もういい加減、認めろよ。
というか……
「もうみんな知ってるんだから、いい加減付き合ってるって認めろよ!」
「水無月くんと神無月さんって普段からあれだけいちゃついてるから、もう驚かないかな」
「水無月って、地味で目立たないって思ってたけど、やることはやるんだな…」
クラスのあちこちから、そんなヤジが飛んでくる。
「ほら、水無月くん。もう言い訳しなくてもいいってば」
夢風がさらに俺を追い詰めてくる。
絶対、こいつ俺が困ってるのを見て、楽しんでるよな。
だって、俺が本当に好きな人が誰かを分かってるんだから。
なんて性格が悪いんだ、この女は。
「もう認めちゃいなよ」
ニヤニヤと、うつむかせた俺の顔をのぞき込んでくる夢風。
そもそも今回、なんで俺はあんなことを口走ったのだろうか。
なんて考えようとするのだが、本当は答えを知っていた。
心当たりなんて、本当に一つしかないんだよ。
昨日、神無月との、あの一件。
想像以上に俺の精神にダメージを与えた。
神無月との、友達という縁が切れてしまうことが怖かったんだ、俺は。
だから、無意識であんなことを口走ってしまったんだ。
「で、紫苑はどうなの? やっぱり、あんだけ一緒にいるから―」
夢風の茶化すような言葉を遮り、微かに微笑んだ表情で神無月は言った。
「恋愛感情ではないことくらい分かっているわ……だけれど、嬉しいわね………」
神無月のその言葉に、クラス中はガッカリしたような素振りを見せる。
みんな俺たちから視線を離していく。
「なんだ、神無月さんって素っ気ないのは変わらないね」
「え? そういう感じじゃないんだ……」
「うわ、つまんないね」
などという、面白くなさそうな声が聞こえてくるのだが……
この教室の中で、俺は神無月のその言葉を誰よりも喜んでいた。
心が晴れ渡っていくような。心地の良い感覚だった。
そんな俺とは対照的に、彼女は淀みきった様子だった。
「へぇ……そうなんだ……」
「残念だったな夢風。そういうことだから」
勝ち誇ったような顔を夢風に向ける俺に、神無月は一言。
「ええ。ただ夢乃に言われた方が、こんなやつの何億倍も嬉しいのだけれどね」
本当にお前は最後の最後で……。
俺の感動を返せよ。
一件落着したかのように思えた。
俺と神無月の関係はこれからも続くと……
この時の俺はそんな幻想を抱いていたんだ。
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