第12話 第二章 過去と今。(4)

第二章 過去と今。


駅から降りた俺と神無月は歩き始める。

そして、俺は驚いたように神無月の顔を見つめる。

「え? 神無月もなのか?」

「ええ」

家の最寄り駅が同じだった俺達は、お互いに歩き始める。

まぁ、さすがにどこかで別れるだろうとは思った。

「じゃあな」

俺はそうやって、駅前の信号で神無月にさようならをした。

神無月からの返事はなかったが、俺は何も気にせずに歩き始める。

異変に気づいたのは、自宅マンションに着いた時だった。

「あのさ…どうして俺のマンションまで来るの?」

不思議そうに言う俺に、神無月は当然と言わんばかりの顔で。

「いいかしら…あなたのでもあって、私のでもあるのだけれど」

「いやいや、待ってくれ」

同じマンションならば、一度くらいは顔を合わせたりなどしていそうなのだが。

今日の今日まで知らなかったのだが…というか、なんで神無月はあんまり驚いてないんだよ。

「えーと、ここにはずっと住んでるのか?」

「いえ、一年ほど前に引っ越してきたばかりよ。あなたはずっとでしょ?」

「そうなのか。って、どうして俺がずっとここに住んでるって知ってるんだよ」

「特に意味はないわ。なんとなくよ」

「なんとなくで分かることではないと思うんだが」

「なんとなくはなんとなくよ」

そう言いながら、俺の前を歩き出し、マンションへと入っていく。

そんな神無月に俺はついていき、共にエレベーターに乗り込む。

「はぁ…」

「どうしてため息なんてついているのかしら?」

「いや、別に…おっと、やべ」

行先階ボタンを押し忘れた俺は、急いで押そうとする。

えーと、七階を押し………あれ?

エレベーターはどんどんと上へと昇っていく。

そして、俺は押してもいないはずなのに、我が家がある七階へと。

神無月は何も言わずに、特に気にしている様子もなく降りて進んでいく。

「あっ、おい、待ってくれよ」

後を追うような形で進んでいく俺。

段々と嫌な予感が現実味を帯びてきた。

まさかとは思った、さすがにと思った。

しかし、神無月が立ち止まった部屋は、七○七号室。

そして、俺が立ち止まった部屋は、七○六号室。

「おいおいおい! ちょっと待ってくれよ!」

声を少し荒げる俺を見て、神無月は軽蔑するような視線を向けてきた。

「あなた、こんな集合住宅で、声を荒げるとか、いい近所迷惑ね」

「あっ、それは申し訳ない……ってそうじゃなくて!」

「驚いているのは、分かるのだけれど、私はこんな家の前であなたと話していられるほど暇ではないの。それじゃあ、さようなら」

鍵を開けるガチャリとした音が聞こえてくる。

いつもと変わらない様子の神無月。

どうやらなんとも思っていないらしい。

「あっ、おい、神無月は驚かないのかよ」

ドンと閉められた扉。

おそらく俺の声は聞こえなかっただろう。

隣の家なんだから、別にピンポンして話せばいいのかもしれないが、神無月、相手にそれをすることは自殺行為だと思うし、そうするほどの用件ではないようにも思える。

いや、俺からすれば一大事なんだが…。

そんなことを思っていると、不意に再び扉が一瞬だけ開かれて、神無月が顔だけチラッと出して一言。

「私、最初から知ってたから」

ドン、再び閉められた扉。

俺も同じように鍵を開けて、家に入る。

「なんとなくじゃないじゃん…」

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