第11話 第二章 過去と今。(3)

第二章 過去と今。


学校の外に出ると、俺たちは歩き始める。

全くもって合わない歩幅で。

「ねぇ、紫苑? なんで、水無月くんに一緒に帰ろうって誘われて、オッケーしたの?」

不思議そうな顔で、そう聞く夢風。

ナイスタイミングだ。

俺もそれ、不思議に思ってたんだよな……なんで、あんなあっさりと。

「それはあれよ。このゴミ以下人間が私のこと好きだからよ」

俺はその言葉を聞くと、立ち止まってしまった。

なるほど…俺の事を考えてくれたのか。

優しい一面もあるんだな……って、そうじゃなくて⁉

やばい!

そういう話題はこの最低最悪女の前でしちゃいけないって。なるべく避けて欲しいんだが。

「へ~。水無月くんってなんか気持ち悪いね。フラれたのに、しつこく付きまとってるってことでしょ?」

誰のせいでこうなったのか、と。

今すぐこいつに問いかけたいくらいである。

しかも、別にフラれてねぇし。

「そう……気持ち悪いわね」

おい神無月、調子乗んなよ。

誰のためにやってると思っている?

「別に恋愛感情とかじゃなくて、普通に友達としてやっていくつもりなんだが…」

おそらくこの状況では、この回答が一番ベストだろう。

「そう……吐き気がするわね」

お前の発案なんだけどな!

少しばかりイラッとした俺だった。

が、何が一番ムカつくかと言われれば…俺に酷い事を言っているこいつが、一番酷い目に遭うかもしれないっていう状況がムカつくんだよ……。

「良かったね、紫苑。男子に告白されるなんて、人生で初めてじゃないの?」

「ええ……こんな男じゃなければ、最高の想い出になっていたかもしれないわね」

本当になんでいきなりそんな毒舌キャラになったの?

本人に聞いてみるか。

「ははっ……こんな男じゃなければ、ね。…………あのぉ? 俺って、なんかそんなに嫌がるようなことしましたっけ? なんでそんないきなり毒舌になったの?」

「別に、私が嫌がるようなことは特にしてないわ」

俺の告白は別に嫌ではない……と。

「ただ単に、存在が嫌なだけ。今すぐ死んでほしいわ」

存在が嫌なだけ……死んでほしい………………存在を否定されたわ⁉

「もうっ、紫苑、ダメだよ。ほら、水無月くんが困ってるよ?」

夢風がそれを言うな、一番の俺の悩みの種はお前なんだよ!

「そうね……いきなり存在を否定されたら、誰だって困るでしょうね」

「死んでほしい、は言っちゃだめだよ?」

「そう……」

少し、シュンとした気がした。

さすがに言い過ぎたと反省しているのだろうか?

「ごめんなさい……言い過ぎたわ。さすがに死んでほしい、とまでは思っていないから、安心してちょうだい」

「いやいや、大丈夫だよ。気にしてないから……」

神無月、憶えてろよ?

いつか、俺という存在がどれほど大切だったかを思い知らせてやるからな。

「あなたって、ただのクールを気取ってる一匹狼ナルシストだと思っていたけれど、優しいのね……酷いこと沢山言われてるのに、全然、怒らないから……夢乃と同じくらい優しい気がする」

いや、心の中では怒ってるよ?

けどね、君に同情すると、怒りという感情が表に出せないんだよ。

俺からすれば、最低最悪女を親友と信じてる神無月の方が優しい人間と思えてしまう。

まぁ、本当は真実を知らないだけなんだけど……。

あとただのクールを気取ってる一匹狼ナルシストって、何だよ。

さりげなくディスるな。

「私と同じくらい、か。……私って、優しいの?」

少しも表情を曇らせずに、当たり前のことを聞くように、神無月に質問する夢風。

そして、神無月の言葉……

「もちろんよ。時乃は私の大切な親友で、一人ぼっちの私に話しかけてきてくれた、優しい女の子なんだから」

「もうっ、紫苑ったら恥ずかしいよぉ…」

ギュッと神無月を抱きしめる夢風。

そんな光景は、俺の心をキュッと締め付ける。

本当にどうして夢風は神無月のことを…。

「親友同士っていいな。夢風と神無月からは嘘偽りない友情を感じるよ」

そう言いながら、夢風の顔を凝視する。

「あっ、ごっめ~ん、水無月くんが当たり前すぎること言うから、足が滑っちゃって!」

「痛ぁ⁉」

俺の足を思いっ切り踏んできた夢風。

あれね?

滑っちゃって、って言いながら踏んできたからね?

それもう滑ってないよね。

どう考えても、わざとだよね?

「大丈夫?」

そっと優しく気にかけてくれる神無月。

「ああ、大丈夫だと思‐」

「あなたじゃなくて、夢乃に言ったの」

前言撤回。

別に俺のことは気にかけていませんでした。

「紫苑? 心配するのは、私じゃなくて、水無月くんの方だよ?」

「いやいや、俺は大丈夫だよ」

誰が踏んできたんだ?

おい、誰のせいだ?

「どうしたの水無月くん、何か言いたげだね?」

「いやいや、何でもないよ……夢風さん」

「夢風さんって、さんってつけて呼ぶっけ? 私のこと」

「それは気分だよ。さんってつけて夢風と呼びたい気分だったんだよ」

二人で見つめ合う。

この見つめ合いはお互い、俺も夢風も笑っているが、心の中では、調子乗んじゃねぇぞ。と思っているに違いない。

そんな時、ちょうど前方に分れ道が。

「じゃあ私こっちだから、紫苑も水無月くんもばいばーい」

「それじゃね、夢乃」

神無月は夢風の姿が見えなくなるまで、ずっと彼女の後ろ姿を見つめていた。

夢風がいなくなった後、俺と神無月は同じ方向を歩き始めるのだが。

先ほど以上に会話数は減り…というかまったく話さなくなり、歩幅もかなり離れてきた。

もう一人で帰っているのとほとんど変わらない感じだった。

さすがに気まずさを感じた俺は、何かを口にしようと思い考えている時だった。

「ごめんなさい」

突如として、神無月に謝られた。

「神無月? いきなりどうした」

「いえ、その…私、今日はあなたにかなり酷いことをたくさん言ったから…」

本当に申し訳なさそうにそう言う神無月。

「いやあのな。本当に俺は気にしてないから、そんな謝らなくていいぞ」

気にするなら最初から言うなと、言いたいところだが、なぜか、こいつには優しくなってしまう自分がいる。

「そう…藍はやっぱり優しいのね。ずっと―」

微かな声で独り言を言う神無月。

「ん? 今なんか言ったか?」

「いえ、別に何も言ってないわ」

「そうか。なら別にいいだけど」

言わないってことは言いたくない理由があるんだろうな。

いやそれにしても、藍って、よく俺の下の名前を覚えてたな。

神無月が言った言葉に聞こえないふりをしたが、本当は最初の方だけは微かに聞こえていた。

後半は何を言ってるのか、まったく分からなかったが。

やっぱりなんかありそうなんだよな…。


その後、俺と神無月は駅に着いても一言も喋らず気まずかった。

しかし、この下校イベントはそれだけでは終わらなかった。

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