第10話 第二章 過去と今。(2)

第二章 過去と今。


その日の放課後。

「あの? 俺と一緒に帰ってくれないですか?」

おっと、緊張のあまり敬語になってしまった。まぁ、いいだろう。

正直、神無月と一緒に帰ることに特に意味はないのだが、なんとなく一緒に帰ろうと思った。

本当に意味はないから。

夢風が神無月に何か仕掛けてこないか心配とかそういうのないから。

「いいわよ……感謝してちょうだい」

だから、何で今日の神無月はこんなに俺のことを下に見てるんだよ。

まぁ、そういう冗談ってのは、分かってるんだけどさ。

「ありがとうございます」

とりあえず言われたとおり感謝した。

で…………予想が正しければ。

「あれ? 珍しいね。紫苑が誰かと一緒に帰るなんて。今日は私、紫苑と帰ろうと思ってたんだけど……」

はい、きたぁ。やっぱり絡んできたぁ~。

俺は神無月との距離を縮めるべく、一緒に下校なんていうイベントを起こした。

別に、こんな夢風みたいな最低最悪な女と仲良くするくらいだったら、俺がいっそのこと仲良くなってやろうと思ったとか、夢風なんかと一緒にいたら、神無月がどんな罠にハメられるか心配でしょうがないとか、そういう訳じゃないんだからねっ!

いや、純粋にキモいな俺。

「悪いな夢風……神無月は今日、俺と一緒に帰―」

「産業廃棄物以下男。今日は夢乃と帰るのよ。早く、あっちに行ってちょうだい?」

俺と一緒にいる方が一億倍こんな奴といるよりも安全なんだが。

「紫苑、そんな言い方したら水無月くんが可哀想だよ。三人で帰らない?」

と言って、俺を同情する夢風。

「夢乃に言われたらしょうがないわね……特別に私と夢乃と一緒に下校することを許可してあげる。心の底から感謝しなさい? 社会のゴミ」

「はい……ありがとうございます」

なんかここだけ聞くと、俺が罵倒されて喜んでいるただの変態にしか見えないな。

「それじゃあ、三人で帰ろっか!」

夢風はいらないんだけどな……。

いや、もっと言うと神無月もいらないんだけどな。

俺は一人で帰るのが好きなんだけどな。

なんて思っていると、さらに俺達に話しかけてくる人物が一人。

「水無月、僕と一緒に帰らないか?」

「湊か、俺は全然い―」

俺が言葉を言い終える前に、吉川が湊を呼ぶ。

「おーい清、先輩がお前のこと探してるぞ」

「え? 本当か。今日は何もないはずだったんだけどな…分かった、すぐ行く。悪い、水無月。僕から誘ったのに、本当にすまん」

「いや、いいよ。別に…」

「また今度一緒に、な。んじゃ、またな」

爽やかなスマイルで去っていく湊を見ながら俺は、だからなんで俺を誘うんだ?

と、終始、疑問符を頭に浮かべていた。

「へぇ~。水無月くんって、清と仲良かったんだ」

若干や含みのある言い方でそう言う夢風は、なんだか少し機嫌悪そうだった。

「どうした?」

「いや、別になんでもないよ。ちょっと不思議に思っただけ」

自分のことなのに、俺も不思議でしょうがないだよな。

「よし、それじゃ帰ろっか」

夢風が先導し、三人で揃って教室を出ると、周りからこんな声が聞こえる。

「おい……あいつ、どういう状況なんだ?」

「なんだ? ハーレムじゃね? なんであいつが……」

俺を羨ましがる男子達の視線。

しかし、奴らは知らない。

美少女二人と一緒に帰っているというこの状況、一見美味しい展開に見えるだろ?

そんなわけないあるかっ!

美味しくねぇよ!

もう今すぐ、色々とぶっちゃけて一人で帰りたいよ!

でも、それはできない。

というか、させてもらえない。

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