第7話 第一章 勘違いとぼっち。(6)

第一章 勘違いとぼっち。


教室の前に着いた俺は、嫌々中に入る。

「はぁ…なんでこんなことに……」

ボソッと独り言を呟きながら、教室の扉を開けると…

夕焼けに照らされて、赤くなる教室の窓際に佇む一人の神無月が目に入った。

この教室には、他に誰もいなく、彼女だけが別世界にいるような、そんな不思議な感覚を俺は抱いた。

やっぱり神無月は容姿だけなら異次元級だな…。

窓から訪れる風に濡羽色の長い髪をたなびかせ、窓に寄りかかり本を読んでいた、無表情な彼女は、いきなり教室に入ってきた俺の顔をチラリと見た。

ほんの一瞬だけ、目が合ったが、神無月がすぐに視線をそらしてしまった。

そんな彼女に俺は寄っていき、話しかけた。

「あの神無月、ちょっといいか?」

いつも無表情な彼女はその時、明らかに動揺したように目を見開いた。

数秒ほど、ためたのち口を開いた。

「ええ、何かしら?」

とりあえず最初は天気の話をするのがいいと、昔、友達を作るための方法っていう本で読んだ気がする。

え? そんな本読んでるのが痛いって?

安心してくれ、俺もそう思う。

「今日はいい天気だな」

「……」

彼女は俺から視線を逸らし、再び本を読み始めた。

あっ、また無視されたわ。

でもこれでノルマは達成だ。

夢風は神無月に話しかけてとしか言っていない。

まぁ、色々と夢風が思っていたのとは違うだろうけど、そんなことは知らん。

俺は、自席で鞄の中に教科書などを入れ、帰りの用意を始めた。

すると……

「ええ、そうね」

「え?」

返ってきた?

神無月から返事が?

「どうして驚いているのかしら。あなたから聞いてきたのでしょう?」

「あっ、ああ、そうだな」

しばらくの間、お互いに沈黙が訪れる。

そして、驚くことにその沈黙を破ったのは、俺ではなく神無月だった。

「あの、一つ聞きたいことがあるのだけれど……」

少し聞きにくいことを聞くような、含みのある言い方をする神無月。

「ああ、どうした?」

またしばらくの間、お互いに沈黙が訪れる。

ただ先ほどと違うことがあり、神無月が視線を左右に送っていて挙動が不審だった。

そして、意を決したように神無月が俺の方を向く。

その真剣な瞳に俺は、心の中で何がきても対処できるようにと、心を落ち着ける。

先ほどの夢風とのことがフラッシュバックするが、もうしょうがない。

あのようなことになったら、今度は―


「ねぇ、あなた私のこと好きでしょ?」


「………………………………………………は?」

あまりの発言に一瞬だけ、言葉を失った。

困惑する俺を置いていき、どんどんと話を進めていく神無月。

「夢乃から聞いたの。おかしいと思っていたのよね、毎日毎日、私のことをチラリと横目で見てきて」

「すまん、ちょっと待ってくれ」

俺は額に手を当て、苦笑いしながら状況を整理しようとする。

が、よくよく考えると状況の整理も何もないのである。

原因は明確。先ほど神無月が言っていたから。

また夢風にしてやられたあああああああああああああああああああ‼

心の中で悲痛な叫び声をあげた。

お察しの通り、俺は神無月の言葉を肯定しなければいけないため、渋々口を開く。

「あぁ、神無月の言う通りだよ……」

「どうかしたかしら? 大丈夫?」

顔が青ざめている俺を見て、神無月は心配そうに言葉をかけてくる。

「い、いや大丈夫だ。すまん、話を続けてくれ……」

俺がそう言うと、神無月はいつもの調子を崩したように、表情も崩し、頬を少し赤らめて。

「そ、その…私、恋愛とかよく分からないから、つ、付き合うとかはできないのだけれど……と、友達からなら、ど、どうかしら?」

夕焼けに照らされているせいか、やけに顔が赤くなっている気がした。

上目づかいで俺のことを見てくる神無月。

おそらく、彼女なりに勇気を振り絞って言ってくれた言葉なのだろう。

今から俺が言う言葉は、夢風に肯定しろと言われたから言うわけであって、決して俺の本心ではない。

別に不安そうに俺のことを見つめてくる神無月が可愛いから言うわけではないということを理解していただきたい。

それでは……失礼して……

俺はそっと手を差し出して、言った。

「友達として、よろしく頼むよ。神無月」

俺がそう言うと、彼女はほっとしたように微かに笑った。

それは初めて見る、彼女の笑みだった。

彼女は一瞬だけ、俺の差し出した手を見たが、握手には応じなかった。

「ええ、こちらこそよろしく」

俺はそんな彼女に苦笑いを浮かべながらも、内心ではホッとしていた。

もしかして神無月って、以外といいやつなのでは?


こうして俺は隣の席の同類陰キャこと、神無月紫苑と友達になった……のだろうか。

友達と言うには、少し出来方が無理矢理すぎる気がする自分がいた。


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