マトリョーシカ

 私は一人、書斎で本を読んでいた。昔書いた小説だ。面白いとは思えないが、過去を懐かしむために、私はその本を開いた。その小説はこんな書き出しだった。


 僕は今、小説を読んでいる。とても素晴らしい小説だ。怪獣が出てくる小説なのだが、その怪獣が人と同じように、笑ったり、泣いたりするのだ。僕はこの小説がとても好きだ。その小説の内容はこうだ・・・


 怪獣は、泣いていた。寂しかったのだ。彼には、友達がいなかった。彼はいつも一人で遊んでいた。泣きながら遊んでいたのだ。その日も公園で一人、遊んだ後、家へ帰ると、あるテレビ番組がやっていた。彼は夢中でそのテレビ番組を観た。その内容はこうだった。


 地球が滅んでから、五十年。細々とある惑星で暮らしていた一家は、ついに地球への思いを断ち切った。彼らは、地球を修復するために、様々な研究を行っていたのだが、半世紀が経ち、彼ら以外の地球人が死んでしまった今、その研究の必要性がまったく失われてしまったように感じられたのだ。博士は、地球で出版されたある漫画を手に取った。要約すると、以下のような話だ。


 僕は冒険少年。いろんな場所を旅した。竜の背にある火山や、竜巻の中にある王国や、ゼリー状の海や、炭酸の夜空なんかを、冒険してきた。でもどうしてだろう。何か、満たされないような感じがしていた。ある日、小鳥が僕に話しかけてきた。それはこんな話だった。


 世界が今よりずっと自然で溢れていた頃、詩人は題材を探すのに困らなかったのだよ、と小鳥は語った。ある日、詩人が私に話しかけてきたのだ。こんな話だった。

         

 私は各地で詩を書いてきたわけだが、遠い異国で観たあの映画を超えるような作品を生み出せていない。あれは素晴らしい映画だった。その筋を話そう。


 その映画は青春映画で、パラソルの下、男女が話をしているシーンから始まる。

 「実はね、面白い話があるんだ」

 男は話し出した。


「僕が小さいころ、おばあちゃんから聞いた話だ。おばあちゃんは小説が好きでねえ。こんな小説だったよ」

 彼はポケットから文庫本を取り出し、最初の方を読み上げた。

               

 私は一人、書斎で本を読んでいた。昔書いた小説だ。面白いとは思えないが、過去を懐かしむために、私はその本を開いた・・・

                  

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