やっぱりダーク様はお優しい方です

「さあ、カトリーナ、お腹が空いただろう?そろそろ食事にしよう」


しばらく部屋でのんびり過ごした後、再びダーク様に連れられ、食堂へと向かった。さすが公爵家の食堂。とても広くて立派ね。


食堂には大きな長机に対し、イスが隣り合わせに2つ並んでいる。もしかして、隣合わせに座って食べるのかしら?


疑問に思いつつイスに座ると、隣にはダーク様が座った。


「王宮では王妃やセリーヌのせいで寂しい思いをしていたと思うが、これからはずっと僕と一緒に食事をしよう。君の大好きな野菜や果物もたくさん準備してあるよ。それから、今夜はカトリーナを公爵家に迎えられた事をお祝いした、ちょっとした宴も行う予定になっているんだよ」


「宴ですか?私の為に?」


「もちろんだ。君は僕の大切な人だからね。公爵家の人間はもちろん、使用人たちも君が来るのを心待ちにしていたんだ」


僕の大切な人…皆が私を待っていてくれた…


その言葉に、涙がこみ上げて来た。誰からも必要とされないと思っていた。でも…ダーク様はずっと私を思ってくれていた。そしてこれからは、ずっとダーク様といられる。まるで夢みたい…夢ならどうか覚めないで…


「どうしたんだい?急に泣き出して。何か嫌な事があったのかい?遠慮せずに僕に教えてほしい」


ポロポロと泣く私の顔を、心配そうにダーク様が覗き込んでいる。


「こうやって誰かに気に掛けてもらえるのが嬉しくて…」


「可哀そうなカトリーナ。ごめんね、僕がもっと早く助けてあげられたらよかったね。本当にごめん」


何度も何度も謝り、抱きしめてくれるダーク様。いいえ、あなたのせいではないわ。むしろダーク様には感謝の気持ちで一杯なのです。そう言いたいが、溢れる涙のせいで、うまく話せない。


しばらく泣いたら、少し落ち着いた。


「さあ、一緒に食事を食べよう。牢の中では、ろくに食事も与えられていなかったのだろう。少しやつれてしまったね。可哀そうに…おかわりもあるから、たくさん食べて」


「はい、ありがとうございます」


気が付くと、目の前にはたくさんのお料理が並んでいた。それも私の大好きな野菜がたくさん並んでいる。どれもとても美味しそうね。


早速近くにあったサラダを頂く。あぁ、なんて美味しいのかしら。こんなに美味しい野菜を食べたのはいつぶりだろう。こっちの野菜のスティックも美味しいわ。このみずみずしさがたまらないのよね。


つい夢中で食事する。ふとダーク様の方を見ると、私を見つめてほほ笑んでいた。


「ごめんなさい。野菜が美味しくて、つい…」


1人ガツガツ食べて、本当に恥ずかしいわ。


「僕の方こそごめんね。カトリーナが嬉しそうに食事をしている姿を見たら、つい見とれてしまったよ。王宮では、ろくに野菜を与えられていなかったんだろう。ここでは好きなだけ食べるといい。さあ、食事の続きをしよう」


そう言うと、食事を始めたダーク様。私も食事を再開させた。食後のデザートは、フルーツの盛り合わせだった。久しぶりに食べるフルーツ、甘くてみずみずしくて、涙が出るほど美味しかった。


食後はダーク様と一緒に、中庭で一緒にお茶を楽しんだ。そして夜、メイドたちにドレスに着替えさせてもらう事になった。


いつも王宮では雑に扱われていたが、ここでは割れ物を扱う様、とても丁寧に扱ってくれる。それに、色々と話しかけてくれる。こんな風にメイドに話しかけられることはなかったので、どう対応していいか分からない。そんな私にも、笑顔で対応してくれるメイドたち。


そしてメイドが、私に香水を付けてくれた。この香りは…


「ラベンダーの香り…」


「はい。お坊ちゃまが、カトリーナ様はラベンダーがお好きだからと、ご準備されたのですよ。この部屋も、魔力量の多いカトリーナ様の為に、何年もかけて準備されていたのです。私どもも、カトリーナ様がこのお屋敷にいらっしゃるのを、心待ちにしておりました。カトリーナ様、公爵家にいらしてくださり、ありがとうございました」


私に頭を下げるメイドたち。私の為に何年もかけ、部屋を準備してくださるなんて。そして、私の好きな物を把握し、取り揃えて下さったのね…


改めてダーク様の優しさが身に染みる。気が付くと、涙がこみ上げてきた。


「カトリーナ様、今まで随分と辛い思いをしたと聞いております。どうかこの家では、遠慮せずに過ごしてください。私たちにも、我が儘を言って頂いても問題ありませんからね」


そう言って優しく微笑んでくれたメイドたち。そんなメイドたちを見ていたら、瞳から涙が溢れた。


「ありがとう…みんな」


私が落ち着くまで、優しく背中をさすってくれるメイドたち。落ち着いたところで、再び化粧を直してもらい、準備が完了した。


部屋から出ると、ダーク様が待ってくれていた。


「カトリーナ、とても美しいよ。さあ、両親と弟妹も待っている。行こうか」


ダーク様にエスコートされ、今日の会場でもある広間へとやって来た。そこには、私の為にたくさんの料理が準備されていた。そして、ダーク様のご両親、さらに弟のジーク様と、妹のミリアナ様もいた。


「カトリーナ嬢、お久しぶりです。あの性悪女、セリーヌのせいで酷い目にあったそうですね。でももう大丈夫ですよ」


「本当に、セリーヌの性格の悪さにはうんざりしていましたの。とにかく、カトリーナお義姉様だけでも、取り戻せてよかったわ。これからは私とも仲良くしてくださいね」


ジーク様とミリアナ様が私に話しかけてきてくれた。それにしても、セリーヌお姉様の事を性悪女だなんて…でも、ジーク様もミリアナ様も、私を歓迎してくれている様で、ほっとした。


特にミリアナ様は、私の事をお義姉様と呼んでくれる。それが嬉しくてたまらない。


「ジーク様、ミリアナ様、私の方こそ、どうか仲良くしてくださいね」


「もう、カトリーナお義姉様ったら。私たちはいずれ家族になるのですよ。ミリアナと呼んでください」


「じゃあ、僕の事はジークで」


「わかりましたわ、ではジークとミリアナと呼ばせていただきますね」


「ミリアナはいいとしても、ジーク。あまりカトリーナに馴れ馴れしくするなよ」


「まあ、ダークお兄様ったら。嫉妬深い男は嫌われますわよ」


私がジークと話していたのが気に入らなかったのか、すかさず私の腰に手を回し、ジークに文句を言うダーク様。それに対し、すかさず突っ込むミリアナ。この和気あいあいとした雰囲気、素敵ね。


その後はご両親も交え、6人で楽しい時間を過ごした。皆が私に笑いかけてくれる。それが嬉しくてたまらない。きっとこれが、家族というものなのだろう。そういえば、お母様もいつも私にこんな風に話しかけてくれていたわ。


これからはきっと、この家でこんな風に過ごしていくのだろう。そう思ったら、嬉しくてたまらない。

もしかするとお母様が私に、新しい家族を与えてくれたのかもしれない。きっとそうね。


私を1人の人間として大切にしてくれる、新しい家族たち。私も彼らの為に、出来る事をしよう。そう決意したのだった。


※次回からダーク視点です。

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