第33話 どうしてあなたが私を攫うのですか?
そう、私を抱きかかえていたのは、かつての婚約者、ダーク様だったのだ。彼の腕から抜け出し、あたりを見渡す。薄暗いが、どうやらまだ王宮内の様だ。私の腕には、魔力を無力化するリングも付けられていた。
「一体これはどういう事ですか。まさか、セリーヌ…お姉様の仇でも取るつもりですか?ハリー様はどうしたのですか?」
「そんな訳ないだろう。僕はあの女が大嫌いだったんだ。僕が心から愛しているのは、カトリーナ、君だけだよ。ハリー殿下は、僕の魔力で眠ってもらっている。君にも魔力を掛けたのだが、やっぱり効かなかったみたいだね。すぐに起きちゃうんだもん」
とりあえず、ハリー様は無事なのね。よかったわ。でも…
「何をおっしゃっているの?だってあの時、あなた様はセリーヌお姉様と一緒に私を陥れ、命を奪おうとしていたではありませんか?」
そうよ、この人はあの女と一緒に、私を陥れたのだ。
「あの時は仕方がなかったんだ。一旦あの女の指示に従っただけだ。もちろん、あんな女とは結婚するつもりはなかった。いずれあの女と王妃は、国外に追放する予定だったんだよ。その準備も整えていたんだけれどね。そしてカトリーナをこの国に向かう途中で、連れ戻すつもりだったのに。まさか飛行船で飛んで行ってしまうなんて。あの時は本当に焦ったよ…」
この人は、何を言っているの?
「何度も君を連れ戻そうとしたのが、さすが大国、グレッサ王国。警備がかなり厳しくてね。それに第二王子でもあるハリー殿下が、すっかりカトリーナを気に入ってしまったし。正直君を僕以外の男に触れられていると思うと、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを覚えたよ。君は僕だけのものなのに…」
ニヤリと笑って私に近づいてくるダーク様。その目は狂気に満ちている。恐怖から、後ずさりをしてしまった。
「私を例え連れ戻したとしても、もう私はハリー様の婚約者として皆に知れ渡っています。そんな私を誘拐して自国に連れて帰れば、あなたもただでは済まされないはずですよ」
「そうだね。だから、公爵家の一室に君を閉じ込めておくつもりだよ。ただ、君は魔力量が異常に多いからね。特別な部屋を作るのに苦労したよ。そうそう、僕も君ほどではないけれど、かなりの魔力量を持っているんだよ。さあ、話しはこれくらいにして、そろそろ国に帰ろう。大丈夫だよ、そのまま君はずっと公爵家で暮らすんだ。もちろん、何不自由ない生活を約束しよう」
ゆっくりと近づいてくるダーク様。
「イヤです…私が心から愛しているのは、ハリー様ただ1人です。そもそも、どんな理由であれ、あなた様は私を裏切ったではありませんか?」
ダーク様をキッと睨みつける。
「そんな事を言わないでくれ。僕はずっと君が好きだったんだ!君を初めて王宮で見たあの日からね!あの日からずっと、君との結婚を夢見て生きて来た。もう君なしでは生きられない…君に会えなかった時間は、本当に辛くて、毎日絶望の連続だったんだよ…さあ、カトリーナ、意地を張らずに帰ろう。こっちにおいで!お前たちも手伝ってくれ」
ダーク様が叫ぶと、数名の男女がやって来た。その中には、私を攫おうとしたメイドの姿も。とにかく逃げないと!そう思ったのだが、ダーク様と数名の男女が一気に私に魔力を掛けて来た。
体が硬直して動けない。どうしよう…
「さあ、僕の可愛いカトリーナ。お家に帰ろうね!もう二度と離さないよ…」
私の方にゆっくり近づいてくるダーク様。
イヤよ…
帰りたくない…
お願い、私の魔力。この魔力を吹き飛ばして!
そう強く念じた時だった。腕に付けられていた魔力を無力化するリングが、粉々に砕けたと同時に、私の体から一気に魔力が放出した。その瞬間。
「「「「ウワァァァ」」」」
私の魔力が直撃したダーク様をはじめ、周りにいた男女も吹き飛ばされたのだ。
「ハァハァ…」
一気に魔力を放出したせいで、私もその場に座り込む。ふとダーク様の方を見ると、ピクリとも動かない。もしかして、私…
ふらつく体を必死に起こし、フラフラとダーク様に近づく。どうやら生きている様だ。すると、ゆっくりと目を開けた。
「カトリーナ…」
「ダーク様、今ならまだ間に合います。どうか私の事は諦めて、国に帰ってください。あなた様もわかったはずです。私の魔力には勝てないと…それが意味する事が、どういう事かわかりますよね?」
私を無理やり連れて帰り、閉じ込めておくことはできないという事だ。
「カトリーナ…僕は君を心から…愛している。君がいない人生なんて、考えられない。頼む…どうか僕と一緒に帰ってくれ。それが無理なら、君の手で僕を葬ってくれ…頼む…」
「そんな事は出来ません。私はハリー様を愛しております。彼は独りぼっちの私に、たくさんの愛情や生きる希望を与えて下さいました。もう彼意外と人生を共にすることは、考えられないのです」
「そうか…もし僕が、あの女のふざけた計画に乗らなければ、僕はきっとまだ君の側にいられたのかな?君は一時期でも、僕を愛してくれた期間はあったのかな…」
「そうかもしれません…少なくともあの国にいた時は、私はダーク様をお慕いしておりました…」
確かにあの日、お姉様に嵌められこの国を追放されなければ、きっとダーク様とそのまま結婚していただろう。でも…
「でも…“もし”なんて事を考えても意味がありませんわ。だって、そんな事はもう起こりえないのですから」
「そうだね…君の言う通りだ…」
ポロポロと涙を流すダーク様。
その時だった。
「カトリーナ!!」
この声は!
「ハリー様!!」
ものすごい勢いでこちらに向かってやって来るハリー様に向かって、私も走り出した。そして、そのまま抱き着く。
「カトリーナ、怪我はないかい!無事でよかった!」
「はい、私は大丈夫ですわ」
ギューッと抱きしめてくれた後、私から離れてダーク様の元に向かったハリー様。
「待って…」
無意識にハリー様の腕を掴んだ。
「大丈夫だよ。少し話しをするだけだから」
そう言うと、再びダーク様の元へと向かった。
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