第32話 僕の大切なカトリーナ~ダーク視点~

マレッティア王国の公爵令息として産まれた僕は、次期公爵として、両親の愛情をたっぷり受けて大切に育てられた。もちろん、王族とも顔見知りだった。


僕は物心ついた時から、心から愛している女性がいる。それは、カトリーナだ。生まれながらに魔力量がかなり多い彼女は、天使のような可愛らしい笑顔で笑う、とても素敵な少女だった。


初めて彼女を見た時、一気に血が沸き上がる様な感情を抱いた。そう、一目ぼれだった。彼女と結婚したい、そんな思いが日に日に大きくなっていく。


ただ彼女の母親は、男爵令嬢。身分の低い母親は、他の側妃はもちろん、王妃から毛嫌いされている。そのため、あまり外に出てくることもなく、カトリーナに会えるのは年に数回程度。もっと彼女に会いたい、そんな思いから、父上にカトリーナと婚約したい旨を伝えた。


すると


「確かにカトリーナ王女は、魔力量が半端ない。我が家は代々魔力量が多い事で繁栄してきたのだ。そもそも、魔力大国の我が国では、魔力量が多い人間こそ、価値がある。それなのにあのバカ国王は、カトリーナ王女をないがしろにしている。いいだろう、彼女はお前と婚約させる様、国王に伝えよう」


そう、我が公爵家は、魔力量がずば抜けて高い事で繁栄してきた。もちろん、僕もかなり魔力量が高い。でも平和な日々が続いているせいか、国王はすっかり魔力の重要性を忘れてしまっている様だ。本当に愚かな国王だな。


そして、僕とカトリーナの婚約が正式に決まった。婚約者になったカトリーナに、僕は頻繁に会いに行った。彼女は母親を早くに亡くしている事もあり、ずっと孤独の中で生きて来た。メイドにすら冷遇されたいのだ。


これからは僕が愛情をたっぷり与えてやろう。そうすれば、僕に依存して生きていくだろう。そうだ、早速カトリーナの部屋を準備しないと。それから、ドレスや宝石もたくさん買い与えよう。そう思っていたのに…


「ダーク様、どうしてカトリーナに優しくするの?あなたは私のものなのに」


何をどうしてそう思ったのか、頭の悪いセリーヌが僕に文句を言って来たのだ。どうやらこの女は、僕の事が好きみたいだ。こんな女、放っておこう、そう思っていたのだが…


あの女、カトリーナに与えたドレスや宝石を奪ったり、酷い暴言を吐いたりと、やりたい放題だ。さすがに文句を言ってやろうと思ったのだが…


「ダーク、セリーヌ王女に今は逆らうな。今この国は、一時的に王妃が権力を握っている。王宮内は、完全に王妃の言いなりだ。これ以上お前がセリーヌ王女にたてつけば、カトリーナ王女が危ない。現にカトリーナ王女の母親は、王妃に毒殺された」


「なんですって…それじゃあ、カトリーナの母親の死因は…」


まさか、王妃はそこまでしていたとは…


「大丈夫だ、王妃を追い詰める準備は着々と進んでいる。あと数年はかかるが、お前たちが結婚する頃には決着がつくはずだ」


あと数年か…でも、その間カトリーナはずっと孤独な日々を送るだろう。そうすれば、その後僕がたっぷり甘やかしてやれば、もっともっと僕に依存するかもしれない。よし!


「わかりました、父上。父上の言う通りにします」


この日から、僕はセリーヌを愛している風に見せかけた。そして月日は流れ、あの事件が起きた。


セリーヌから作戦を聞かされた時、一瞬迷った。でも、うまく行けばセリーヌを消せるかもしれない。それに、もしカトリーナが捕まっても、彼女の魔力量なら、命を奪う事は出来ないだろう。そうだ、その時は隣国へ追放する事を提案しよう。そして、途中でカトリーナを助け出し、公爵家でかくまえば問題ない。



王妃とセリーヌを追放した後、彼女たちに命を狙われていたカトリーナを匿っていたとでも言えば、問題ないだろう。よし!


そして迎えた当日、作戦はそれなりにうまく行った。ただ、僕が国外追放を提案した際、何を思ったのかあのバカ国王が“それなら隣国の第二王子が、魔力欠乏症で苦しんでいる。だから、無償提供しよう。恩も売れるし、一石二鳥だ”なんて言い出したのだ。


まあ、いいか。どうせ途中で救出するのだから。そう思っていたのに…


「なんだと!隣国の使いの者が、飛行船でカトリーナを連れて行ってしまっただと!」


「はい、王宮の近くに飛行船をとめていたらしく…申し訳ございません」


そんな…


カトリーナが隣国に行ってしまっただって!カトリーナの魔力をもってすれば、第二王子を治してしまうだろう。そして何より、カトリーナは美しく優しい。きっと第二王子は、カトリーナを好きになる。


そんな事をさせてたまるか!カトリーナは、僕だけのものなのに!


「今すぐグレッサ王国に向かい、カトリーナを連れ戻してこい!」


公爵家でもかなり優秀な人間を行かせたが、それでもカトリーナを連れ戻すことが出来なかった。そんな中、恐れいていた事態が起こる。カトリーナとグレッサ王国の第二王子が、正式に婚約したのだ。


クソ、カトリーナは僕のものなのに!体から湧き上がる怒りを必死に抑える。でも、それと同時に、セリーヌが案の定、自分の方が第二王子にふさわしいと言い出したのだ。これはチャンスだ。


このバカ女を地獄に叩き落とすとともに、カトリーナを連れ戻そう。待っていてね、カトリーナ。必ず迎えに行くからね。

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