第26話 面倒な事になりました
部屋に戻り、部屋着に着替えた。今日はさすがに疲れた、湯あみをして寝よう。そう思っていたのだが…
「カトリーナ、悪いが今から、さっきの状況を聞かせてもらいたいのだが。執務室に一緒に来てくれるだろうか」
「わかりました。すぐに着替えますので、少々お待ちください」
一旦ハリー様に部屋の外に出てもらい、急いでワンピースに着替えた。そして、ハリー様と一緒に執務室に向かう。そこには王族はもちろん、何人かの貴族も集まっていた。
「カトリーナちゃん、また連れ去られそうになったのですってね。大丈夫だった?」
私の元に駆けつけてくれたのは、お義母様だ。
「はい、ハリー様がすぐに駆け付けて下さったので」
「そう、それはよかったわ。それにしても、王宮の警備はどうなっているのかしら?護衛騎士たちも、倒されていたと聞くし…」
「そうだな…ただ、相手はかなりの魔力持ちの様だから、一筋縄ではいかないかもしれない…とにかく今後は、王宮魔術師の中から護衛を付けよう」
「あの、お義父様。確かに彼女はかなりの魔力持ちだとは思いますが、私の方が魔力は上でした。現に私が放った魔力で、かなりのダメージを受けておりましたので。ですから、魔術師を付けていただかなくても大丈夫ですわ」
これ以上、大切な人たちに負担をかけたくはない。そう思ったのだが…
「いいや、君はハリーの大切な婚約者だ。それに何より、カトリーナ殿が思っているよりもずっと、君は貴重な存在なんだ!君が人並外れた魔力の持ち主だという事は、重々承知している。でも、どうか私たちに守らせてくれないだろうか?これは、グレッサ王国にたたきつけられた挑戦状でもあるんだよ」
「父上の言う通りだよ。カトリーナ殿。君は僕の大切な義妹だ。君を守るのは、僕たち王族の役目でもある。どうか、守らせてくれ」
「兄上、カトリーナを守るのは、俺の役目です!」
すかさずハリー様が、抗議の声をあげる。そこはスルーでもいいのでは…そう思ったが、まあいいか。王族の人たちが、そこまで私の事を考えてくれているなんて…
「わかりました。生意気な事を言って、申し訳ございません。それでは、どうかよろしくお願いいたします。そうそう、彼女と会話をしてわかったことがあるのです。やはり私を、マレッティア王国に連れ戻す事が目的な様です。そして、彼女は何者かに雇われています。ただ、その何者かは、教えてもらえませんでした」
「なるほど。それじゃあマレッティア王国の人間が、カトリーナ殿を連れ戻したいと考えているのだな。父上、ちょっと困ったことになりましたね…」
「ああ、そうだな…」
困った事?一体何かしら?
「実は来月、王族たちが集まって今後の事を話し合う、世界会議があるんだ。毎年開かれている会議なのだが、今年は我が国で行われることになっていてね」
「父上、さすがにレッティア王国の王族と、カトリーナを会わせることは反対です。会議の期間、俺とカトリーナは俺が引き継ぐ予定になっている領地に避難します。いい機会なので、領地も案内したいですし」
不安そうな私の肩を抱き、ほほ笑んだハリー様。確かにマレッティア王国の国王や王妃様と会うのは嫌だものね。
「それが…そうもいかないんだ。今回王族でもあるお前が婚約しただろう。この際だから、カトリーナ殿を他の王族に紹介する事になっているんだよ。ほら、大々的に婚約発表を行っただろう?そのせいで、既に多数の国から“ハリー殿下の婚約者にお会いするのを楽しみにしています”と連絡があってな。だから…その…」
「だからカトリーナを、王族たちに会わせるのですか?父上はカトリーナより、自分のメンツが大切だと言うのですか?ふざけるのもいい加減にしてください!」
お義父様に向かって、ものすごい剣幕で怒るハリー様。確かに国王としても、私を会わせない訳には行かないのだろう。
「あの、ハリー様、私は大丈夫ですわ。王族ならやはり、メンツは大事ですし。それに、ハリー様はもちろん、私にはこんなにも心強い味方がいらっしゃるのです。もう私は1人ではありません。ですから、どうかあまり怒らないでください」
きっと来るとしても国王と王妃様くらいだろう。ああ見えて王妃様は、世間体をものすごく気にする人だ。ハリー様の婚約者になった私に、どうこうしてくるほどの度胸はないはず。
「わかったよ…カトリーナは優しいな。それじゃあ、会議がある間は極力俺がそばに居るからね。そうだ、寝る時も一緒に寝よう。もちろん、手は出さないから安心して欲しい。俺がずっと側にいれば、いくら何でも手出しはされないはずだから」
ん?さすがに一緒に寝るのはマズいのでは。そう言おうとしたのだが…
「よし、話しはまとまったな。カトリーナ殿、こんな時に申し訳ないが、会議の間よろしくたのむ。それから、至急魔力に特化した護衛をカトリーナ殿につけさせよう」
結局お義父様に話しをまとめられてしまい、これ以上何かをいう事が出来なかった。仕方ない、きっと紳士的なハリー様の事だ。私に手を出してくることはないだろう。
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