第20話 ハリー様の病気が完治しました
魔石を披露して以降、早速ハリー様が石を身につけてくれている。ただ、頻繁に私に触れているせいか、全く魔力が移動していないらしい。
ラクレス様の話しでは、魔力を吸収するたびに、色が変化していくとの事だが、ずっとエメラルドグリーンのままなのだ。最近魔力を吸い取られる様な感じもない。
疑問に思いつつ、今日もラクレス様の元に、ハリー様と一緒に向かう。ちなみにグラス様だが、魔石の営業に行くため、今は異国に行っているらしい。
「ラクレス様、おはようございます」
「カトリーナ殿、ハリー殿下、よくいらっしゃいました。さあ、カトリーナ殿、早速魔力を込めてくれ」
大量の石を渡された。それを見たハリー様が
「どうしてこんなにも、たくさんの石を渡すんだい?1日3個までと決めてあっただろう?」
「そうなのですが、カトリーナ殿はすぐに魔力が回復しますので、時間を空けて魔力を込めていただければ大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだ。そもそも、まだそんなに魔石は必要ないはずだぞ」
「それがですね、実は新たな研究に使っているので、大量の魔石が必要なのです」
あら、魔石を何かの研究に使っているのね。さすがラクレス様、研究熱心ね。
「ふざけるな!カトリーナの魔力を何だと思っているんだ。そんな無駄使いをするなら、もうカトリーナの魔力は提供しないぞ!」
「何が無駄使いですか!私の研究結果一つで、この国がまた豊かになるのですよ!殿下なら、それくらいの事をわかっていてもらわないと困ります!あまり我が儘を言う様なら、殿下は出入り禁止にしますよ」
「何が我が儘だ!俺がこの塔にこないなら、カトリーナも連れてこないからな」
「何をおっしゃっているのですか?そんな事は許されません!」
ものすごい言い合いを始めた2人。これはマズイ。
「あの、2人とも落ち着いて下さい。この石に魔力を込めればいいのですね。ハリー様、私の事をいつも気遣ってくださり、ありがとうございます。でも、この程度なら大丈夫ですわ。ラクレス様、明日までに魔力を込めてきますね」
「ああ、よろしく頼むよ。それじゃあ、私は研究があるからこれで」
そう言うと、いつも通り部屋の奥へと入って行くラクレス様。
「相変わらず自由な男だ!カトリーナ、無理をすることはないよ」
「大丈夫ですわ。私は誰かの為に何かが出来る事が、嬉しくてたまらないのです。だって、自分が必要とされているって、実感できるじゃないですか」
この国に来て、私は色々な人に、必要としてもらっている。それが生きる糧になっているのだ。
「あぁ、可哀そうに」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれるハリー様。さらに
「俺にとって君は、いなくてはならない存在だ。だから、あまり無理をしないでほしい。君はいてくれるだけで、俺はとても幸せな気持ちになれるのだから」
いてくれるだけで、幸せ…その言葉が、胸に響く。わかっている、私はハリー様にとって、大切な魔力提供者。いるだけで魔力がみち、元気になれると言う意味だろう。
それでも、なぜだろう。ぽっかり空いた心の穴が埋まる様な、そんな気持ちになる。
「ありがとうございます。早くハリー様が完治できる様、全力を尽くしますわ」
たとえ魔力提供者として、なくてはならない存在だったとしても、それでもいい。彼に必要とされているのなら。素直にそう思った。
「あ…うん。そうだね。魔力の提供の件で、なくてはならない存在と言ったわけではないのだが…とにかく病気を治してからという訳か…まあいい」
何やら小声でブツブツ呟くハリー様。
「とにかく、もうこんな陰気くさい場所、さっさとおさらばしよう」
陰気くさいだなんて。他の王宮魔術師たちが、ジト目でこっちを見ていますわよ。
そんな視線など全く感じていないハリー様に手を引かれ、塔を後にした。王宮に戻ると、小走りで私たちの方にやって来るメイドの姿が目に入る。
「ハリー殿下、お医者様がお見えです。一度お部屋にお戻りください」
「そういえば、今日は診察の日だったね。カトリーナも一緒に来てくれるかい?」
「はい、もちろんです」
ほぼ普通通りの生活を送っているハリー様だが、定期的に医師の診察を受けている。急いでハリー様の部屋に向かうと、陛下や王妃様、王太子殿下も来ていた。毎回診察の時には、家族全員で見守っている。本当にハリー様は、家族から大切にされているのだろう。
早速診察が始まった。でも、なぜかいつも以上に診察に時間がかかっている。どうしたのかしら?
「先生、ハリーの容体はどうなのですか?」
あまりにも診察時間が長いため、王妃様が心配そうに聞いている。皆も不安そうな顔をしていた。
「いえ…どうやらハリー殿下の病気は、完全に完治した様です。何度も確認いたしましたので、間違いありません」
「まあ、それは本当なの?ハリー、よかったわね!それもこれも、全てカトリーナちゃんのお陰よ。本当にありがとう、カトリーナちゃん」
涙を流して私の手を握り、何度も頭を下げる王妃様。陛下や王太子殿下も、嬉しそうだ。
「私はただ、魔力を提供していただけです。きっとハリー様の生きようという気持ちが、完治に結び付いたのですわ」
ついにハリー様の病気が完治した。でも私は…
本来であれば喜ばなければいけないところだけれど、魔力欠乏症が完治したハリー様にとって、私はきっと用済みだ。そう思ったら、どうしても素直に喜べない自分がいたのだった。
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