第19話 俺に黙って魔術塔に通っていたなんて~ハリー視点~

モヤモヤしたまま、日々を過ごしていたある日


「殿下、申し訳ございません。今日もカトリーナ様を見失いました」


申し訳なさそうに、俺に報告してくる騎士たち。クソ、一体どうなっているんだ。どうしても気になって、カトリーナを探す。すると、なんとグラスと一緒にいるところを見つけた。


急いで彼女の元に向かい、なぜグラスと一緒にいるのかを確認する。ん?待てよ、この光景、以前にも見たぞ。まさかグラスの奴、俺の気持ちを知っていてカトリーナと密会を!


そんな想像をしてしまう。でもグラスは、ばったりここで会っただけだと言っている。さらにカトリーナも、この花が好きで、よく見に来ているとの事。カトリーナが指さす先には、桜が咲いていた。そうか、カトリーナは桜が好きだったのか。早速王宮の庭に桜を植えよう。


て、今はそんな話しをしている場合ではない。とにかく、カトリーナにメイドか護衛を付ける様に強く言ったが、やはりかわされてしまった。まあいい、後でグラスを問い詰めよう。


きっと何か隠しているはずだ!あいつは嘘を付くとき、目が泳ぐからな。前回はすぐに逃げられたから気が付かなかったが、今回はばっちり泳いでいるのを見た。


気を取り直して昼食を2人で食べた。午後はカトリーナの為に作った畑を見に行く約束をした。畑の完成を告げた時のカトリーナの嬉しそうな顔をみたら、つい俺まで笑みがこぼれる。


俺が継ぐ予定の公爵家の庭にも、同じように野菜と果物、ラベンダー畑、さらに桜の木も植えよう。きっとカトリーナは喜ぶだろう。そんな事を考えていると、グラスが何食わぬ顔で俺たちを呼びに来たのだ。


何の話しだろう。カトリーナまで呼ぶなんて。疑問に思いつつも、執務室へと向かった。そこで知らされた事実に、俺は驚愕した。


なんと、ラクレスを筆頭にグラスとカトリーナは、人間にも魔力を与えられる魔石を作っていたらしい。それも俺に内緒で!


だからカトリーナは、毎日こっそりと出掛けていたのか。そもそも3カ月もの間、俺に内緒で他の男に会っていたなんて!特にグラス、あいつ、俺に黙ってカトリーナと一緒に過ごしていたなんて!


言いようのない怒りがこみ上げ、ついグラスに詰め寄ってしまった。完全にしまったと思ったグラスは、必死に言い訳をしている。


さらにカトリーナまでもが、自分がグラスに俺には言わないでほしいとお願いしたとまで言い出した。


もしかして、カトリーナはグラスが好きなのか?俺と一緒にいたくなくて、この石を作ったのか?そんな負の感情が支配する。


とにかく、グラスにこれ以上カトリーナを近づかせる訳には行かない!あいつにはこの魔石の営業の為、国から一旦出て行ってもらおう。俺の気持ちを知っていながら、黙ってカトリーナと過ごしていた罰だ。これくらい与えても、罰は当たらないだろう。


問題はラクレスだ。こいつは本当に鈍い男だ。カトリーナを除くここにいる全ての人間が、俺の怒りに気が付いているのに、当の本人は気が付いていないなんて!


まあいい、とにかくカトリーナが塔に行くときは、何が何でも俺が同行する事にしよう。


その後、実際魔力を込めるところを皆で見学した。カトリーナの魔力はけた違いだとは知っていたが、まさにここまでだったとは…そう、彼女は通常ではありえない程の魔力量を含んだ石を、4つも作ったのだ。


一緒に見学していた貴族からも、歓声が上がった。他の貴族どもがうっとりとカトリーナを見つめている。その視線がとにかく気に入らない俺は、カトリーナの息が上がって来たところで、塔を後にした。何なんだよ、あいつらの視線は。特にアーレの視線が気に入らない。


そしてラクレス!あいつ、カトリーナを何だと思っているんだ。どんどん魔石を作らせやがって!何が何でもカトリーナを1人で塔には行かせないからな!



翌日、再び貴族や王族が集まった。


「カトリーナ殿の魔力は異常なほどに高いです。はっきり言って国宝級。陛下、なぜマレッティア王国の国王は、彼女を手放したのですか?既に調べているのでしょう?」


この国の貴族たちは非常に賢い。カトリーナに何かあると感づいているのだろう。もしここでごまかしても、きっとこいつらは自分で調べ上げるだろう。父上も同じことを思ったのか、カトリーナに関する資料を貴族たちに見せた。


「なるほど…やはりマレッティア王国の国王は、バカだったのですね。でも、これは好都合。虐げられていたカトリーナ殿は、既に居場所はこの国にしかない。この際、一気にカトリーナ殿を囲い込み、この国にずっととどまってもらいましょう。幸い、ハリー殿下がカトリーナ殿に強い好意を抱いている様ですし」


ニヤリと笑い、こちらを見たのはアーレだ。図星だから言い返せないが、何だか癪に障る。


「そうだな。幸いカトリーナ殿もこの国を気に入ってくれている様だし。ずっとこの国にいてもらうつもりだ。ただハリーとの結婚の件は、カトリーナ殿の気持ちに寄り添った形にしたいと思っている。無理強いはしたくない」


「もちろんです、父上!カトリーナに振り向いてもらえる様、頑張る予定です」


「それならいい」


「それから、魔石の件ですが、昨日も言った通り、グラスに各国に営業に行ってもらおうと思っています」


「ハリー殿下、それは…」


「お前は実際開発にも携わったんだろう?知っている人間が営業に行った方が、話しも早い」


グラスに向かってにっこり微笑んでやった。


「…それじゃあグラス、悪いが行ってやってくれるかい?3ヶ月程度で戻って来てもらって構わないから…もちろん、報酬はしっかり出そう!」


父上が申し訳なさそうにそう言った。でも、なんで3ヶ月なんだ!


「わかりました。では、3ヶ月だけ行ってきます!陛下、報酬の件、忘れないでくださいね」


報酬と聞いた途端、目の色を変えたグラス。本当にがめつい男だ。こんながめつい男なんかに、カトリーナは渡せない!こいつが帰って来るまでに、けりを付けないと。



※次回、カトリーナ視点に戻ります。

よろしくお願いしますm(__)m

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