第21話 連れ去られそうになりました
皆が喜んでいる中、1人複雑な感情を抱く。そんな私に気が付いたのは、ハリー様だ。
「カトリーナ、悲しそうな顔をしてどうしたんだい?」
不安そうなハリー様の顔が目に入る。気が付くと、瞳から涙が溢れていた。
「ごめんなさい、私…ちょっと体調が良くないみたいなので、失礼します」
「あっ、待って!カトリーナ」
後ろでハリー様の声が聞こえるが、今はそれどころではない。溢れる涙を見られたくなくて、必死に走った。気が付くと、王宮魔術師が研究をしている塔の近くまで来ていた。この場所は、美しい桜が咲いている。
私の為に、中庭に桜の木を植えてくれたが、それでもやっぱりこの桜が一番気に入っている。
桜の木の下に、腰を下ろした。
私…最低ね。やっとハリー様の病気が治ったのに、喜ぶどころか泣いてしまうなんて。きっと皆、呆れているだろう。でも…
この地に来て、たくさんの人に優しくされた。ハリー様や王妃様、グラス様、ラクレス様、ルル、みんなと過ごすうちに、この幸せが当たり前の様に感じていた。この先もずっと、この幸せが続くと。
でも…
ハリー様に魔力を提供するためにここにやって来た私は、きっともう用なしだろう。もしかしたら、このままマレッティア王国に送り返されるかもしれない。運よく送り返されなくても、きっと今までの様に、ハリー様は私の側にはいなくなるだろう。
だってもう、私から魔力を受け取る必要が無くなったのだから…
もう私はハリー様にとって、必要ない人間。その事実が、胸に突き刺さる。出来る事なら、ずっとハリー様と一緒にいたかった。でも、それはもう叶わない。
その現実を突き付けられた今、どうしようもないほど胸が苦しいのだ。今までこんな感情を抱いたことがあっただろうか。そう思うほど、胸が張り裂けそうになる。それと同時に、瞳からとめどなく涙が溢れる。
その涙を止める事が出来ず、1人静かに泣いた。その時だった。
「あらあら、こんなところで涙を流して。お可哀そうに」
声の方を向くと、メイド服を着た女性が立っていた。このメイド、見た事がないわね。新人さんかしら。
「もう大丈夫ですよ。カトリーナ様、さあ、私と一緒に帰りましょう。あの方も、あなた様の帰りを待ち望んでいらっしゃいます」
「あの、あなたは何を言っているの?帰るって、どこに帰るの?あの方とは?」
言っている意味が全く分からない。
「詳しい話しは後です。さあ、誰かに見つかっては面倒です。早く参りましょう!さあ、早く!」
私の腕を掴み、そのままどこかに連れて行こうとするメイド。この人、一体何なの?
「イヤ、離して!」
必死でメイドを振り払おうとした。
「そんなに怯えないでください。私はあなた様を迎えに来ただけなのです。大丈夫ですよ。さあ、ここから王宮の裏へと抜けられます」
壁をずらしたと思ったら、奥に丘の様な場所が見えていた。はっきりは見えないが、馬車が停まっているように見える。
「ここは…」
「私が魔力で穴を開けたのです。騎士たちにバレずに開けるのは、大変だったのですよ」
魔力で穴を開けるなんて…
それもこの王宮は、ある程度の魔力で守られているはずなのに…
この人は何者なのだろう…
「あの、私は参りません。どこのどなたか存じませんが、どうぞ1人でお帰り下さい」
彼女の手を振り払い、すっと距離を置く。
「そうは参りません。私はあなた様を連れて帰るのが任務ですので。さあ、来てください」
強引に私の腕を掴む女性。次の瞬間、魔力を無力化するリングを付けられた。しまった、魔力を封じられたわ。どうしよう…
その時だった。
「カトリーナから離れろ!!」
ものすごい勢いでこちらにやって来るのは、ハリー様だ。
「ちっ!邪魔が入ったわね。カトリーナ様、必ずまた迎えに参りますわ」
ものすごい速さで穴から抜け出ると、そのまま穴が塞がれてしまった。あの女性は、一体何だったのだろう。
「カトリーナ!!」
なぜかそのまま抱きしめられた。ギューギュー抱きしめられ、少し苦しい。
「ハリー様、どうして…」
「君が悲しそうな顔で出て行ったから、心配して探していたんだ。こんなところにいたんだね。とにかく無事でよかった」
心配して探しに来てくれたのね。もう用なしの私なのに。でもその優しさが、今の私には胸に突き刺さる。
お願い、優しくしないで…
また感情が溢れ出るわ…
「それより、さっきのメイドは誰だい?すごい勢いで逃げて行ったみたいだが。それに、魔力を無力化するリングも付けているではないか?」
そうだった、魔力を無力化するリングを付けられたのだったわ。
「すぐに取ってあげるからね」
そう言って魔力を込めて取ってくれた。ちなみに魔力を無力化するリングは、魔力量が多い人間に魔力を込めてもらえば、簡単に取る事が出来るらしい。
「カトリーナ、知っているかい?魔力を無力化するリングはね。リングを作った人間より魔力量が高い人間に付けた場合、簡単に壊すことが出来るんだよ。だから、自分で壊すことも可能なんだ」
えっ!!!何ですって!そうだったの?知らなかったわ。それじゃあ、私自身でリングを壊すことも出来たのね…
驚愕する私に向かい、優しく微笑みかけてくれるハリー様。
「さあ、何があったのか話してくれるかい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。