第16話 彼女の事が知りたい~ハリー視点~
彼女を追い出した後、1人で湯あみをした。久しぶりに自分で体を動かせるのはやはり嬉しい。さっぱりしたとこで再びベッドに戻ると、シーツが新しい物に代わっていた。
ふとベッドに腰を下ろす。あの王女はカトリーナと言っていたな。魔力量が多い俺の魔力を完全回復させてもなお、普通に歩いていたことを考えると、尋常ではない程の魔力を持っているのだろう。
それに、優しい眼差しをしていた。まるで母上の様な…て、俺は何を考えているんだ。俺の為にこれ以上犠牲者を出したくない!そう思っていたところではないか。しっかりしないと。
コンコン
「ハリー殿下、よろしいですか?」
やって来たのはグラスだ。
「グラス、どういう事だ。彼女を連れてくるなと伝えてあっただろう」
すかさずグラスに詰め寄る。
「陛下と王太子殿下の指示ですので」
「そもそも、よく母上が許したな。いくら死刑囚と言っても、あの母上なら反対しそうだ」
「ですから、王妃様には“隣国の王女が、ぜひ一度自分に治療させてほしいと懇願してきている”と伝えたのです。それでも渋る王妃様を説得するのは、大変だったのですよ」
やっぱり真実を伝えていなかったんだな。本当に、腹黒グラスめ。
「それにしても、彼女は本当に姉君を殺害しようとしたのでしょうか?そう思うほど、優しい女性ですね。ここに来るまでも、とても謙虚で。それに、人の顔色を伺っている節があります。もしかしたら、彼女は自国で冷遇されていたのかもしれませんね。それに彼女ほどの魔力量なら、瞬殺で殺害できるでしょう。その点を考えると、彼女は誰かに嵌められたのではって、まあ、彼女がどんな経緯でここに来たかなんて、どうでもいいですけどね」
散々持論を唱えたところで、最後はどうでもいいだなんて…て、グラスの事などどうでもいい。確かに姉を亡き者にしようとしたとは思えない程、優しい雰囲気の女性だった。
まるで女神の様な…て、俺は何を考えているんだ。あんなにも優しい女性なんだ。これ以上負担をかける訳にはいかない!明日からしっかり拒否しないと!そう思っていたのだが…
翌日
朝起きると、体が軽い。
いつもはいくら魔力の提供を受けても、翌日にはかなり減っているため、体が重くだるくて起き上がれないのに…
これならしばらくは持ちそうだな。それにしても、彼女の魔力は一体どうなっているんだろう。不思議な女性だな。
そんな事を考えていると、なんとカトリーナ嬢が訪ねて来たのだ。きっと俺に魔力を提供しに来たのだろう。でも、彼女を苦しませたくはない。
そんな思いから、とっさに国に帰れと叫んでしまった。
その瞬間、彼女の目の色が変わった。しまった!死刑囚でもある彼女に国に帰れと言うのは、残酷であったかもしれない。でも…俺にずっと魔力を吸い取られるよりかはマシだと思ったのだ。
それに、彼女ほどの魔力持ちなら、きっと自国でも生きていけるだろう。
そんな俺に対し、この程度の魔力なら問題ない、国に帰っても、自分は必要とされていない、疎まれるのがオチだと言って、悲しそうに笑ったのだ。
その瞳は、昨日俺が初めて彼女を見た時と同じ、絶望に満ちた目だった。なぜそんな瞳をするんだ?俺に魔力を奪われ、命を落とすことを恐れていたのではないのか?
混乱する俺をよそに、食事前に訪れた事を謝罪したカトリーナ嬢。正直もう俺は生きる事を諦めていたから、食事を摂る事はない。そう伝えると…
「そんな事を言わないでください。あなた様が万が一命を落としたら、陛下や王妃様、王太子殿下、グラス様、さらに使用人たち、たくさんの人が悲しみます。昨日王妃様や王太子殿下、グラス様や使用人と話しをして、いかに皆様があなた様を大切に思っているのか、生きてほしいと望んでいるか肌で感じました。ですから、どうか生きて下さい!皆様の為にも」
俺の目を見てはっきりとそう言ったカトリーナ嬢。その瞳には嘘偽りは感じない。ただ、どこか寂しげだで、今にも泣きそうな顔をしていた。
確かに俺が命を落とせば家族や友人たち、使用人は悲しんでくれるだろう。でも、だからと言って、誰かを犠牲にしたくはない。特にカトリーナ嬢には…そう思ったのだが。
「大丈夫ですわ。私がおります。私は無駄に魔力量が多いので、魔力を与え続ける事が出来ますわ。それに何より、私の魔力が誰かの役にたつという事が嬉しいのです。どうか私を頼っては下されないでしょうか」
誰かの役に立つのが嬉しいか…そう言った彼女の瞳は、さっきまでの絶望に満ちた目とは正反対の、優しい目をしていた。
そんな彼女の気持ちを無にしたくない、それに何より俺の側にいてほしいという思いから、魔力提供を受け入れることした。
その時、カトリーナ嬢がそれはそれは嬉しそうに笑ったのだ。その瞬間、一気に鼓動が早くなるのを感じた。
そんな俺をよそに、カトリーナ嬢は部屋から出ていこうとしている。もっと彼女と一緒にいたい!そんな思いから、朝食を一緒に食べようと提案した。
俺の提案に快諾してくれたカトリーナ嬢と、早速食事をする。でもなぜかパンとスープだけ。心配になり、あれこれ世話を焼く。すると何を思ったのか、急に泣き出したのだ。
もしかして、体調が悪かったのか?やっぱり俺に魔力を提供する事で、体に負担がかかっているのかもしれない、そう思ったのだが…
「ごめんなさい。母が亡くなって以降、王宮内では誰かに優しくされたり、食事をすることはほとんどなかったので、嬉しくてつい…」
そう言うと、さらに美しい青い瞳から涙を流すカトリーナ嬢。彼女は一体、母国でどんな扱いを受けて来たのだろう。ただ普通に食事をしただけなのに、涙を流すだなんて…
泣き続ける彼女の背中をさすりながら、カトリーナ嬢の事をもっと知りたい、一体どんな扱いを受けていたのか。なぜ死刑囚になってしまったのか。そう強く思った。
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