第17話 俺の最愛の人~ハリー視点~

朝食後、すぐにグラスを呼び出し、カトリーナ嬢について調べさせることにした。どうやら父上たちも彼女について思う事があった様で、今調査を進めているとの事だったので、一緒に報告してもらう事にした。


そしてその日の夕食は、カトリーナ嬢と食べる事にした。というより、これからずっと食事はカトリーナ嬢と一緒に食べるつもりだ。夕食は朝食の時とは打って変わってたくさん食べていた。


幸せそうに食べ物を頬張る彼女を見ていたら、なんだか俺まで幸せな気分になった。この子となら、きっと幸せな家庭が築ける。なぜかわからないが、そんな気がした。


そう、俺はカトリーナ嬢にどうやら惚れてしまった様だ。彼女の優しさ、温かな魔力、そして時折見せる悲しそうな瞳、全てが愛おしい。


今までどんな令嬢にも抱かなかった感情が、今溢れ出そうとしていた。でも、今はまだ気持ちを伝えるべきではないだろう。なぜなら彼女にとって俺は、魔力を提供する相手でしかない。


少しずつ仲良くなって、彼女を振り向かせたい。そんな思いが、俺を支配する。


翌日、朝食を終えた後、早速グラスを呼び出し、カトリーナ嬢についての調査報告に関して確認をする。すると


「いくら何でも、昨日の今日ではまだ報告は上がってきておりませんよ。せっかちですね!」


そう呆れられてしまった。確かに昨日の今日では無理か。


気を取り直して、領地経営の勉強を始めた。俺はいずれ家臣に降り、公爵を名乗る事になっている。もちろん、領地も与えられる予定だ。


今までは兄上を支えるためしっかり勉強しようと思っていたが、今は未来の花嫁になる予定のカトリーナ嬢に、少しでも楽をしてもらうため、立派な公爵になろうと思っている。


午前の勉強を終えたところで、昼食の時間になった。もちろん、カトリーナ嬢と一緒に食べるつもりだ。早速カトリーナ嬢の部屋を訪ねたが、姿はなかった。メイドに聞いても、分からないとの事。


メイドも連れずに、一体どこに行ってしまったのだろう。王宮内を探したが、姿はない。もしかして、中庭かな?


早速中庭に出て、あちこちを探す。すると、いた!カトリーナ嬢だ。ん?なんでグラスと一緒なんだ!どうしてグラスはあんなに嬉しそうに笑っているんだ!カトリーナ嬢も、嬉しそうに笑っている。


2人を見た瞬間、今まで感じた事のない怒りが体中を支配した。一刻も早く2人を引き離したい、そんな思いから、ついカトリーナ嬢の腕を掴み自分の方に引き寄せると同時に、グラスを睨みつけてしまった。


自分でも大人げないとわかっているが、どうしても我慢できなかったのだ。そんな俺の迫力に圧倒されたのか、迷子になっていたカトリーナ嬢を助けただけだといって、すごいスピードで逃げて行った。


何なんだ、あいつは!


まあいい。そんな事よりカトリーナ嬢の事だ。そうか、彼女は2日前にここに来たばかりだったな。そうだ、昼から王宮内を案内してやろう。そうと決まれば、早く食事を済ませないと。


急いで食事を済ませた後は、早速カトリーナ嬢と一緒に、王宮内を回る。目を輝かせながら見て回るカトリーナ嬢。王宮なんてどの国もさほど変わりないはずだが。そう思っていたが、どうやらカトリーナ嬢は、行動を制限されていた様だ。


王女なのに、王宮を自由に移動できないなんて…一体どんな生活をしていたのだろう。増々彼女の事が気になって仕方がない。


でも今は、カトリーナ嬢を楽しませることに専念しないと。そう思い、中庭に出た。特に野菜や果物畑に興味を示したカトリーナ嬢は、美味しそうに野菜や果物を食べていた。


こんなに嬉しそうに食べてくれるなんて、彼女の好きな果物や野菜をもっともっとたくさん作らせよう。そう決意した。さらに呼び方も変えた。カトリーナから“ハリー様”と呼ばれるだけで、なんだか本当に自分の恋人になったような気がして、つい抱きかかえてしまった。


さすがにやりすぎかとも思ったが、どうしても我慢できなかったのだ。


その後もカトリーナと一緒に過ごす。毎日が本当に楽しく、つい自分が病気であることを忘れてしまうくらいだ。カトリーナに魔力を与えられるようになってから、みるみる元気になり、今では半日程度の公務もこなす様になっている。


そんな俺を見て母上が


「ハリー、よかったわね。カトリーナちゃんが来てくれて。あなたにとって彼女は、魔力提供者以上に大切な存在なのでしょう?あの子が私の娘になってくれるなら、大歓迎よ」


そう言って笑っていた。どうやら俺がカトリーナに好意を抱いている事を、母上は気が付いている様だ。


そんな日々を過ごすこと1ヶ月。ついにカトリーナに関する報告書が上がって来た。俺はもちろん、父上と兄上も一緒に書類を目に通す。


もちろん、母上には内緒だ。そう思っていたのだが…



「あなた達、ここで何をしているの?」


やって来たのは母上だ。急いで書類を隠す。


「その書類、カトリーナちゃんに関する調査報告書ではなくって?」


「どうしてそれを?」


「この1ヶ月、カトリーナちゃんと過ごして、何となく違和感を感じたの。彼女は本当は自分の意思で、この地にやってきた訳ではないのではないかと。それに、いつも周りに気を使い、時折寂しそうな顔をしていてね。気になって私も調査を依頼したら、あなた達も調査を依頼していて、今まさにここで報告書を見ていると聞いて。それでここに来たのよ。さあ、私にも見せて頂戴」


さすが王妃でもある母上、カトリーナの事をしっかり見ていたんだな。そんな母上に対し、父上が


「お前には少し、刺激が強すぎる内容かもしれなん…それに…」


そう言って渋っている。確かに母上にとっては、刺激が強すぎるかもしれない。そして何より、今回の報告書を読んだ母上から、色々と追及されることも恐れているのだろう。


「私はどんな内容が書かれていても受け入れますわ。もしここで書類を隠したとしても、新たに調査させるまでです。さあ、私にも書類を見せて頂戴」


強い口調で父上に詰め寄る母上。さすがの父上も、母上に書類を渡したのであった。

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