第15話 彼女との出会い~ハリー視点~
大国、グレッサ王国の第二王子として産まれた俺は、厳格だが家族思いの父上、いつも俺たちの事を一番に考えてくれる優しい母上、そして自分のことよりも俺の事を優先してくれる兄上に囲まれ、何不自由ない生活を送っていた。
第二王子でもある俺は、いずれは公爵の名をもらい、次期国王になる兄上を支える事になっていた。幼馴染で友人でもある侯爵令息のグラスは、俺を支えるため自ら執事になる事を決めてくれた。
そう、俺はたくさんの人に支えられ、幸せに暮らしていたのだ。ただ、年頃になると1つ問題が。俺も兄上も女性が苦手なのだ。どうしても母上の様な、心が広く優しい女性を求めてしまう。
でも、そんな女性はなかなかいない。それどころか、次期王妃や公爵夫人の座を巡り、醜い争いが日夜令嬢の間で繰り広げられていた。その様子を間近で見ていた俺は、どうしても女性に対する苦手意識がついてしまった。
もちろん、兄上もだ。それでも兄上は、公爵令嬢と婚約した。でもその公爵令嬢がとんでもない女だった。他の令嬢をイジメたり、メイドを顎で使ったりとやりたい放題。ついに兄上が18歳の時、婚約破棄が成立した。俺が17歳の時だ。
それ以来、父上も母上も、俺たち兄弟に結婚しろとは言わなくなった。最悪、養子をとる事も検討しているとの事。
そんな中、俺が病に侵されたのだ。あの日はいつもの様に、グラスと一緒に剣を打ち合っていた時だった。急に酷い頭痛に襲われ、そのまま意識を失った。
次に目覚めた時は、体がだるく、動く事も出来ない。呼吸もしづらく、かなり苦しかった。診断の結果、魔力欠乏症と診断された。その瞬間、母上は泣き崩れ、父上と兄上は辛そうに唇をかんでいた。
その後は治療の為、この国でも魔力の高い者が集められた。それでもこの国トップクラスの魔力量を誇る俺に、満足な魔力を与える事が出来る者は現れず、目の前で俺に魔力を奪われ苦しそうに命を落としていく者が続出した。
さらに俺の世話をするため、俺に触れた使用人たちの魔力まで奪ってしまい、中には命を落とした者まで現れ始めたのだ。
俺のせいで、皆が命を落としていく…
母上は毎日涙を流し、父上や兄上、グラスは、より魔力の高い者探しに翻弄している。
俺のせいで、たくさんの人が不幸になっていく…
俺さえいなければ、皆幸せになる…
そんな思いが支配していった。いつしか俺は、魔力の提供を拒むようになり、生きる事すら諦めようとしていた。
そんな時だった。
「ハリー殿下、新たな魔力提供者が現れましたよ」
嬉しそうに俺の元にやって来たのは、グラスだ。
「グラス…もう俺は誰の命も奪いたくはない…」
「大丈夫です。相手は隣国の犯罪者ですから」
「犯罪者?一体どういう事だ?」
話しを聞くと、相手はマレッティア王国の第7王女で、第6王女を殺害しようとした罪で、死刑判決が出ているらしい。ただ、魔力量が多すぎて実質死刑に出来ないため、俺の魔力提供者として無償で提供されることになったらしい。
「元々死刑囚なのですから、魔力を根こそぎ奪い取っても問題ありません。ただ、抵抗される可能性がありますので、魔力を無力化できるリングと、念のため私が迎えに行きます」
王女の死刑囚か…
要するに、俺の手でその王女を殺せと言うのか…
「その王女を連れてくるな…俺はどんな理由があっても、もう二度と誰かの命は奪いたくはない…この話しは終わりだ…」
たとえ死刑囚であっても、俺はもう目の前で誰かが命を落とす姿は見たくないんだ。
そう伝えたのに…
翌日
俺は痛みにもがき苦しんでいた。魔力…魔力が欲しい…
ついそんな感情が支配する。その時だった、グラスが女性を連れていやって来たのだ。
兄上がその女性に、魔力を提供するように訴えている。そうか、昨日言っていた王女を、グラスの奴は連れてきてしまったのか…
ふと女性の方を見ると、美しい宝石の様な青い瞳と目が合った。でもその瞳は、どこか寂しく絶望している様にも見えた。
そうか、やはり彼女も死にたくはないのだろう。とっさに
「や…めろ…俺に触るな…死にたいのか…」
そう訴えた。母上も本当に大丈夫かと訴えている。でも次の瞬間、にこりと笑うと、俺の手を握ったのだ。
その瞬間、彼女の魔力が一気に流れ込んでくる。温かくて柔らかい魔力。なんて心地いい魔力なんだ…早く彼女を解放してやらないと、彼女の命が…
そう思っても、どうしても振りほどくことが出来なかった。そうしている間に、完全に魔力が回復した。今までの激痛や苦しさが嘘の様に消えている。
しまった!
慌てて彼女を見ると、息切れを起こしているが生きている様だ。心配で声を掛けると、逆の俺の体の心配をしてくれた。
この子は本当に、自分の姉を殺そうとした死刑囚なのか?とてもじゃないが、そんな風には見えない。むしろ、心優しい女性の様に見える。
そんな彼女に、これ以上負担は掛けたくはない。とにかく、これ以上俺の為に苦しむ人を増やしたくはない。そんな思いから、彼女を含め母上や兄上も追い出した。
きっと彼女は、俺の事を感じの悪い奴だと思った事だろう。それでもいい、これで彼女が俺に魔力の提供を止めてくれるなら…
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