51 法撃戦

『小癪な……この程度の魔法で!』


 マギウスから精神波を感じた。

 マギウスの胸部が輝き、炎の槍が砕け散る。


『法撃とは……この短い時間でよくひねり出したものだ。だが、相手が悪かったな。偉大なる星間魔法文明マギウスに連なる我にとって、この程度の法撃など児戯にも等しい』


「星間魔法文明、ね」


 なんとも期待させてくれるではないか。


「――マギウス! なんとしてもおまえを倒し、おまえの技術を奪って火星に帰る!」


『できるものならやってみろ!』


 マギウスが再度ミサイルを放つ。


「クシナダ、遠慮なくやってやれ!」


『待ってました!』


 クシナダがレールキャノンを管制し、飛来するミサイルを次々に墜とす。


「撃墜率七割ってとこか。まだまだだな」


 三割に減ったミサイルを、俺は余裕を持ってかわしていく。


『向こうも学習していますからね。ですが、一矢は報いましたよ。マギウスの知能は有機体の知能に極めて近い。単純な機械学習なら私に若干の分があるようです。十分な学習時間が確保できれば、ですが。』


「解説してねえでエスティカの法撃に備えろ! 有効そうな魔法をあぶりだせ!」


『そうですね。では、『岩石』で行きましょう。もちろん、大きいほうが都合がいいです。』


「わかりました。――岩よ、いわおと成りて敵を撃て――隕石之弩コメットブラスト!」


 ビームザッパーの先端に、無数の岩が出現する。

 岩は互いにぶつかりあって融合し、ツルギよりも大きな岩塊と化した。

 その岩塊が、射出される。

 なかなかの迫力だが、炎の槍よりは弾速が遅いな。


『この程度――』


 案の定、マギウスはバーニアを吹かせて避けようとする。

 そこに、


「荒ぶれ、暴風――突風之槌ウインドブロウ!」


 エスティカがさらに術を重ねた。

 岩塊が魔法の突風に押されて加速する。


『なにっ!?』


「ついでだ、こいつでも押してやる!」


 俺はビームザッパーを一射し、加速した岩塊をさらに押す。


『ぐおおっ!?』


 大質量の衝突に、マギウスが空中でよろめいた。


「力添えありがとうございます、セイヤさま」


「なに、岩塊の扱いなら宇宙で慣れてる」


 宇宙空間では、隠れて近づく、盾にする、敵基地に向かって落とす……等々使い道が多いのだ。

 ここは宇宙空間ではなく惑星の重力圏内だが、さっきの岩はどういう理屈でか重力を逃れてるみたいだったからな。


『しかし、与えた損害は軽微ですよ。』


『舐めるな! こんな原始的な術で――』


 マギウスから精神波が溢れ出す。


 これは――


「防御じゃねえ! 法撃が来るぞ!」


『反物質に抱かれながら消え失せ爆ぜよ――ヴォイド・エクスプロージョン!』


 マギウスの言葉と同時に、俺の背筋を悪寒が走る。


「くっ!?」


 本能の命じるままに、俺は操縦桿を一気に倒す。


「きゃあっ!」


 強烈なGに、後部座席でエスティカが悲鳴を上げた。


 だが、今はそれに構っていられない。


 さっきまでツルギのいた空間に黒い火線が集まってくる。


 そして、


「うおおおっ!?」

「きゃああっ!」

『これは……!』


 間近で起きた見えない爆発に、ツルギがきりもみ状態になって吹き飛ばされる。


「くっ!」


 俺は強烈な慣性をこらえながら、スラスタを吹かし、ツルギの体勢を立て直す。


 そこに、ミサイルの雨が降ってきた。


『迎撃します!』


 クシナダが迎撃するが、半数くらいは撃ち漏らす。

 不規則に軌道を変えながらミサイルが体勢を崩したツルギへと殺到する。


「きっちいな!」


 高度を落とし、俺はツルギを森に突っ込ませる。

 ミサイルの群れが木立にぶつかって爆発した。

 森を煙幕にミサイルをかわす作戦だが、ツルギは森の木々よりすこしデカい。

 木立の間を縫うように飛ぶなんて真似ができるわけもなく、ツルギはピンボールの玉のように跳ね飛ばされる。


「ぐ、が、ががが……!」


 そのたびに棍棒で殴られたような衝撃が襲う。

 避けきれない木をエッジドビームシールドで強引に払い、ようやくまともな体勢に戻ることができた。

 追ってくるミサイルがなくなったところで上空へ。


 そこで、クシナダが警告する。


『――セイヤ。エスティカが限界です。』

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