50 炎の槍
「なっ!?」
『ザッハトゥクルの方角、距離3キロ、高度200メートル!』
クシナダの声に機体を旋回させる。
紫色の樹冠の奥、クシナダの言った通りの高度に、ビームフィールドに守られた巨大な機影が浮かんでいた。
「おい、クシナダ! どうして気づかなかった!?」
『レーダーで捉えられませんでした。ビームフィールドはステルス機能も持たされているようです。光学画像もカモフラージュされていますが、今は私のほうで処理して強調表示しています。』
たしかに、言われてみれば表示がおかしい。
頻繁にノイズが走り、一瞬背後の空が透けて見える。
光学画像をクシナダがリアルタイムで書き換えて表示しているのだ。
マギウスの上半身は比較的鮮明に補正されてるが、下半身の解像度はかなり低い。
さっきの戦闘ではマギウスの下半身は見えなかったからな。
だが、徐々に像を結んでいく。
『足をつけなかった自分を怨め――先ほどそう言ったな、異世界人。だが、
「大型のバーニアが八基……いや、もっとあるな」
マギウスの腰から下には足はなかった。
代わりに、超大型のバーニアが複数ついている。
バーニアは、それぞれがツルギの全高と同じくらいの大きさだ。
『あまり小回りは利かぬがな。おまえたちの戦闘能力を考えれば問題ない。いずれにせよ、そちらの攻撃は通らぬのだ』
「エスティカ、ぶっつけ本番になるが、いけるか?」
俺はマギウスを無視してエスティカに聞く。
「はい、いけます」
『異世界の技術には興味があったが、この程度ならばわざわざ回収の手間をかける必要はない。さらばだ、異世界の蛮人よ』
マギウスが一方的に会話を終えた。
マギウスの全身から生えた触手がこちらを向き、一斉にミサイルを吐き出した。
俺はバーニアをふかして宙に浮き、回避行動の自由度を確保する。
「クシナダ、迎撃は任せる!」
『了解。時間があったので少しは学習の成果が見せられます。』
「いや、見せなくていい。俺がかわせるギリギリの数を残して盛大に外せ! 煙幕は多いほうがいいからな!」
『しかたありませんね。どちらが機械知性として優れているか雌雄を決したいところだったのですが。』
「んな中途半端な人間アピールはいらねえよ! って、マギウスも大概人間くさいやつだけどな!」
『それも、三下の小悪党じみたパーソナリティですね。なまじ腕力があるので手がつけられません。さぁ、来ますよ!』
クシナダは迎撃をわざと外し、俺は操縦桿を直感任せに振りまわす。
「だらあああっ!」
強烈なGがかかったが、エスティカはなんとか耐えてくれたようだ。
「セイヤさま、いけます!」
ミサイルの群れが自爆していく。
その爆炎に紛れるようにツルギを動かし、
「――いまだ!」
「炎よ、渦巻け――
エスティカが精神波を解き放つ。
ツルギが構えたビームザッパーが、炎の柱に包まれた。
『――なにっ!?』
射出された炎の槍が、マギウスの胸に突き立った。
通常兵器とちがい、ビームフィールドも貫通している。
「やった! 抜けたぞ!」
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