49 作戦

「そもそもだな、俺たちがこの世界に連れてこられた時はどうだった? そりゃ、あっちじゃ大量の精神波が渦巻いてたが、こっち側で大量の精神波なんて発生してたか?」


「……そ、そういえばそうですね。セイヤさまたちがこの世界に現れた瞬間に大きな精神波が発生したことは、魔王陛下が察知されていました。ですが、その前の時点で大量の精神波がこちら側にあったとは思えません。マギウスによれば、大量の精神波を集めるには戦争が必要だということですが、 私の知る限り、この近辺で大きな戦乱は起きてないはずです。もちろん、地平線のはるかかなたのことまではわからないのですが」


「そう。俺とツルギをこの世界に連れてくるだけなら、大がかりなことは必要ねえはずなんだ。スピリチュアル・サイクロトロンとやらを普通に使えば問題なく転移させられる可能性が高い。まぁ、俺たちの時にはエンケラドスでの戦いで向こう側に大きな精神波のうねりがあったんだが、マギウスは自分の実験にそのうねりが引っかかったという言い方をした。エンケラドスに発生してた精神波を利用したわけじゃねえ。たまたま干渉しあっただけだ」


「それで、マギウスは嘘をついていると」


「ああ。あいつに人を騙してはいけないなんて慎みがあるとは思えねえからな。口先だけでこっちを抑えこめるなら当然そうするだろう」


「でも、そうすると、マギウスの目的がわかりません。異世界からセイヤさまを召喚するなんていう大それたことですら、スピリチュアル・サイクロトロンは今の状態でもできていたんです。この星を戦乱の渦に叩きこまねば抽出できないほどの精神波を集めて何をしたいのか……」


「マギウスは、俺たちの召喚どころじゃないどえらいことを狙ってるってことだな」


『それがなんなのかはわかりませんが。』


「クシナダにわからねえなら推測は不可能だろうな。だが、放っておいていいことじゃねえのはたしかだ。あいつは、この星を戦乱に叩き落とすのが子どもの遊びに思えてくるような、とんでもない何かを狙ってやがる。それを見なかったことにはできねえさ」


 それに、素直に従ったところで、マギウスが約束を守る保証などどこにもない。


 ……案外素直に送り返してくれる可能性もないわけじゃないが……。


 奴はこっちのことなんて、大事の前の小事の、そのまた前の小々事くらいにしか思ってない。

 俺たちを送り返すのと抹殺するのでどっちが楽かを考えて、その通りに実行するだけだ。


 だが、マギウスに裏切られてから慌ててももう遅い。

 戦乱を見過ごしにした時点で、エスティカもレヴィも俺たちのことなんて見限ってる。

 味方がいないどころか、下手をすればお尋ね者になってるだろう。


「とまあ、そんな戦略的判断ではあるが、いちばんの理由はあいつが気に入らねえからだ」


 俺のセリフにエスティカがずっこけた。


「好き嫌いは馬鹿になんねえぞ? 士気に直結するからな」


『セイヤが偏屈なだけですけどね。』


「うっせえ。しかし、どうしたもんかな。ツルギの武装じゃビームフィールドは破れねえ。ミサイルの撃墜すら難しい」


『エッジドビームシールドで斬り裂けませんか?』


「いや、それ、ダメだったらヤバいから」


 こっちがビームフィールドに近づいたところで、マギウスが性格の悪さを発揮して、ビームフィールドをもうちょっとだけ・・・・・・・・拡げてくるかもしれない。接触したら一貫の終わりだ。


 その問題をクリアして接近し、無事ビームフィールドを斬り裂けたとしても、ツルギが通れるほどの穴を空けるのは困難だろう。

 ああいうもんはたいてい、穴が空いたら周囲から充填して自然にふさがるようにできてるもんだからな。


 そこまでクリアできたとしても、まだ問題は残ってる。

 もしフィールドの内部に入りこめたとしても、ビームフィールド内の限られた空間で無数のミサイルをさばくのは難しい。

 ついでに言えば、マギウスは絶対、ミサイル以外の中距離・近距離兵器を準備してる。

 あの規模のビームフィールドが張れるんだ。ビーム兵器は当然のように使ってくるはずだ。


「ビームフィールドを貫通して本体を攻撃するか、ビームフィールドを作動できなくするか、だな。具体的な方法は思いつかんが」


 俺は、はあ、とため息をつく。

 エスティカが、考えながら口を開く。


「あの……ずっと気になってたんですが、ツルギには法撃用の装備はないのですか?」


「そりゃ、魔法自体がなかったからな。

 ……って、ちょっと待てよ。この世界のマギフレームやドラグフレームは、どうやって法撃を行なってる? そんなに複雑な仕組みじゃないはずだよな?」


霊虹銀スピリチュアルシルバー――ええと、セイヤさまたちの言うところのメビウスマターに魔法を流すだけです。メビウスマターが触媒として働いて魔法を大きく増幅します」


「んじゃ、メビウスマターがあって、魔法使いがいればいいんだな?」


「魔法ならお任せください。私はこの世界そのものの名を持つ巫女なのですから」


「魔王やリリスと比べてどうだ?」


「リリスよりは確実に上です。魔王陛下は底が知れないところがありますが、単純な魔法の威力では私のほうが優ってるはずです」


「マジか」


 万事控えめなエスティカがそこまで言うなら、相当な自負があるのだろう。


『たとえば、ビームザッパーに内蔵しているメビウスマターを触媒にして法撃をする、ということは?』


「できます。魔法の具現範囲を調整すれば、ビームザッパーを壊すこともないはずです」


「法撃ってのはどういう性質のものなんだ? マギウスのミサイルにはアンチビームコーティングがかかってた。まずまちがいなく、本体にもかかってるはずだ」


「私にはビームというものがなんなのかよくわからないのですが、術のバリエーションには自信があります。炎、稲妻、暴風、岩石、氷……それ以外のものでも、私にイメージできるものはたいてい出せます」


「そいつはすげえな」


 ビームやレーザー、プラズマみたいなもんは無理そうだが、それ以外のものでもマギウスにダメージの通るものがありそうだ。


『ガンナーシートからでも法撃はできますよね?』


「はい。有効範囲内です」


「なんとか希望がつながったな」


 エスティカの顔がすこし緩む。

 俺の顔も緩んだかもしれない。


 だが、次の瞬間に引きつった。


『――ようやく見つけたぞ、異世界人』


 空気を震わせ響いたのは、もちろんマギウスの声だった。

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