37 偵察

 しばらく飛んでいると、リリスのティアマトが遅れはじめた。

 推進力の差で、ツルギのほうが巡航速度がだいぶ速い。

 そりゃ、ティアマトは翼を羽ばたいて飛んでるからな。

 機動兵器として、これほど効率の悪そうな飛び方もそうはない。

 むしろ、ちゃんと飛べているのが不思議なほどだ。


 通信機越しに、リリスが言ってくる。


「速いな! それのどこに『限界がある』のだ!」


「専用機よりは速度が落ちるんだよ。ホバリングにも限界がある。滞空力ならそっちのが上だ」


 こっちはある程度の速度で飛び続けていないとすぐに高度が下がるからな。


 やがて、昨日歩いて抜けた、紫衣の森の上空へとさしかかる。


『敵影確認。数、150。体高7メートルのマギフレームで構成されています。』


「もう見えたのか!? こっちからは見えんぞ!」


 クシナダの報告に、通信機の向こうからリリスが言う。


『レーダーですからね。』


「れ、れーだー……? 敵の種類は?」


『同型のマギフレームで統一されています。武装にはバリエーションがあるようですが、ここからではレーダーの解像度の問題で識別できません。その問題がなかったとしても、法撃用の装備を外見で識別できる自信はありませんが。』


 まあ、そりゃそうだ。

 金属製のナニカを見て、それが魔法の杖かどうかをどうやって「識別」するんだって話だからな。


「ふぅん。んじゃ、ひと当てしてみるか」


 いつものノリでそうつぶやいた俺に、


「待て! 今回の目的は偵察だ!」


 リリスが慌てて言ってくる。


「偵察の目的は、敵の戦力について有用な情報を持ち帰ることだ。敵がたくさんいましたってだけじゃ、ガキの使いにもならねえよ」


「だ、だが、数が多すぎる! いくら上空からなら安全とはいえ……」


「いや、全然安全じゃないと思うぞ? マギウスは、エスティカの文明水準を超越したテクノロジーを持ってるはずだ。対空砲くらいは準備してるんじゃないか? ヘタすりゃ地対空ミサイルもな」


「み、みさ……? おまえの言うことはよくわからんが、それは危険ということだろう!?」


「心配ならここで見ててくれ。俺は行く。なに、飛行形態でひと往復してくるだけだ」


「本当に大丈夫なのだろうな……?」


「大丈夫だから言ってるんだ」


 リリスが黙ったところで、俺は一度旋回して速度を上げ、敵陣めがけて紫衣の森の樹冠すれすれを飛んでいく。


『敵が反応しました。ボウガン装備の機体がこちらを狙ってます。』


「脅威か?」


『いいえ、ビームシールドやツルギの装甲を貫く威力はありません。』


「ならこのままだ」


 直後、森の中から矢が飛んできた。

 矢は、ツルギからだいぶ離れた地点を通過した。

 べつに、俺が避けたわけじゃない。

 最初から狙いがズレてるな。


「照準精度が悪いな」


『そもそも照準用のシステムがないのでしょう。』


「銃火器はないのか?」


『奥の機体が火砲を持っています。』


「あのロケットランチャーみたいなのか?」


噴進ロケット弾ではありません。ただの大砲です。あ、来ますよ。』


 火砲が火を吹いた。

 しかしその弾速は遅く、改良人間である俺の視力でなら影が捉えられるほどだ。


「……あまり見せつけすぎてもよくねえか」


 俺はわざとその砲弾を機首に食らい、よろめいた演技をしながら、高度を上げて敵陣から離脱する。


「だ、大丈夫か!?」


 リリスが焦った様子で聞いてくるが、


「ああ、演技だよ。こっちの性能をまだ見せつけたくはないからな」


「……いや、十分見せつけていたと思うが」


「こっちに航空戦力があるってことは見せておいたほうがいいんだ。警戒して進軍速度が鈍くなる」


『そこまでする必要がありますか? いっそこの場で敵部隊を殲滅してもいいかと思うのですが……』


「マギウスを警戒させたくない。マギウスは、この世界の文明水準を低く見積もってる。だから、この程度の機体しか造らせなかったんだ。下手につついて、太陽系の技術すら凌駕するような機体を投入してこられたら厄介だ」


「ツルギを超える機体か……悪夢だな」


 リリスがぞっとしたようにつぶやいた。


「陛下への報告の必要もある。私もひと当てしてこよう」


「わかった。敵の地上戦能力を見てもらえると助かる。ツルギの変形は隙が多くて、敵前ではできないからな」


「了解だ。私の出番もあって安心したよ」


 ティアマトが敵陣へと飛んでいく。

 陣地の手前で降下し、人型になって敵マギフレームと交戦を始める。


 森が邪魔でこっちからはよく見えないのだが……。


 しばらくして、SOSが飛んできた。


「おい、ヤバいぞ! 離脱のための援護を頼む!」


「なっ……マジか」


 リリスのティアマトが苦戦してんのか。

 俺は紫衣の森上空からティアマトの周囲にビームザッパーを撒き散らす。

 その隙に、ティアマトが竜形態に変形して空に逃げる。


「すまん、助かった」


「そんなヤバいのがいたのか?」


「く……不覚だ。敵のマギフレームは帝国のセンチネルを改造したものに見えたのだが、それは見かけだけだった。まるで生身の人間のようななめらかな動きと、人間にはありえない関節の柔軟性。こちらの攻撃を猿のように避けたかと思えば、機体の関節部に蛇のようにからみついてくる」


「……なるほど。地上での格闘戦に特化してやがるのか」


 武装だけを見て弱いと判断したのは早計だったみたいだな。

 こういうことがあるから、ひと当てしておく必要があるんだよな。


 リリスが焦りもあらわに言ってくる。


「マズいぞ! あんなものが押し寄せてきたら、魔国のマギフレームでも止められない! ドラグフレームでかろうじて対抗できるレベルだ! ゴブリンⅡなど餌にしかならん!」


「なら、早く戻るべきだな」


「ああ。一刻も早く陛下にご報告しなければ!」

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