38 凶報
「……なるほどのぅ。リリスですら手を焼くほどの格闘戦能力か」
レヴィが険しい顔でそう言った。
「ボウガンや火砲、投石機もあったぜ」
「ううむ。魔王軍にも火砲はあるが、マギフレームに携行させるという発想はなかったのじゃ。マギフレームはその強力なパワーで敵や陣地を薙ぎ倒すためのものじゃからの。なまじの火砲ではマギフレームの装甲を破れぬ以上、火砲は陣地に歩兵を寄せつけぬためのものでしかなかったのじゃ」
「クシナダの推算じゃ、あの口径の火砲ならゴブリンⅡやアークデーモンの装甲はひしゃげるぞ。ボストロールの盾ならどうにかってところだな」
「じゃが、ボストロールを盾にして接近できたとしても、敵機は格闘戦にすこぶる強い。物量で押せばなんとかなるやもしれぬが、犠牲者の数は考えたくもないの」
「まぁ、そんならツルギでやるだけなんだがな。ただ、マギウスにツルギの性能を把握されるのは避けたいところだ」
「いや、客分であるおぬしに任せっきりにしては魔国は赤っ恥もいいところじゃ。ま、機体性能で劣っておっても、戦いようはいくらでもある。こちら側には地の利もあるしの」
「なら、いいけどよ」
レヴィの言葉は、あながち強がりでもなさそうだ。
「さいわい、魔国は三方を山に囲まれた要害の地じゃ。戦力を正面に集中すれば――」
レヴィが言いかけたところで、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
直後、俺たちのいる食堂の扉が音を立てて開かれる。
「何事じゃ、騒々しい」
「た、大変です!」
そう言って飛びこんできたのは、見覚えのある重臣だ。
「落ち着かんか。上に立つ者は、火急の時こそ狼狽えた素振りを見せてはならぬ」
「は、は……! 失礼しました……」
「よい。おぬしがかように狼狽するということは、よほどの事態なのであろう。マギウスが予想外の動きを見せたか?」
「いえ、違います。陛下のご指示通り、マギウス討滅のために各諸侯に兵を出すよう求めたのですが……」
「なに? このような事態にもかかわらず、日和見を決めこむ諸侯でもおったのか?」
「そ、そのような甘い状況ではございません! は、反乱です!」
「……なんだと?」
「ドミトルヌ公、オークランガ侯、エミル侯が、それぞれ家臣筋に当たる貴族を集め、魔王陛下に宣戦を布告!」
「なっ! なんじゃと!?」
「各勢力はそれぞれマギフレームを集結して魔王都上洛を狙っている模様! すでにオークランガ侯の先遣部隊が魔王都イズデハンに到着し、イズデハンの守護隊と睨みあいを始めています!」
「馬鹿な! 早すぎるではないか!」
さすがのレヴィも茫然自失し、とっさに返す言葉が見つからないようだ。
「おい、ちょっと待て。今レヴィがこの要塞にいるのは、俺とツルギの出現に伴う異常な精神波を感じてのことだった。いわばイレギュラーなわけだが、そんな小さな隙を突かれるほど魔国の内情はヤバかったのか?」
「そんなわけがあるか! 国情は安定しておるし、だいいちドラグフレームを専有する魔王軍に諸侯が逆らえるはずが……」
そこで、エスティカがはっとした顔でつぶやいた。
「……まさか、マギウスが?」
その言葉に、レヴィが顔をはね上げた。
「マギウスが裏で糸を引いておると?」
「わかりませんが、いくらなんでも時機がぴったりすぎます」
エスティカが蒼白な顔でうなずいた。
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