31 決闘

 「要塞」。

 この拠点はそう呼ばれているが、実態としては城塞都市に近い。

 高い城壁にぐるりと囲まれた、推定人口5万ほど(クシナダ推算)が暮らす小都市だ。

 もっとも、「小都市」というのは火星や地球の感覚での話だ。

 惑星エスティカの文明レベルでは、5万の都市は大都市の部類に入るのかもしれない。


 「要塞」の片隅には、マギフレーム用の試技場があった。

 地球のコロッセオを大きくしたような石造の施設である。

 地球のコロッセオより大きいのは、ここで戦うのが人間ではなくマギフレームだからだろう。


『『要塞』自体の面積も、人口に比べて広いです。マギフレームを運用するための空間が必要であることに加え、マギフレームがあるために大規模造営が容易なのだと推察されます。』


 クシナダの解説は興味深かったが、目の前の事態には今のところ関係なさそうだ。


 俺はツルギに乗って、試技場の真ん中に立っている。

 試技場にはすり鉢場の観客席があり、話を聞きつけた魔国の貴族や市民が詰めかけている。

 その容貌はさまざまだ。

 リリスのようなうす紫の肌の尖り耳もいるし、魔王のように頭に角の生えた連中もいる。人間らしき者もいるが、おしなべて身分が低い者用の席に押しこまれてるみたいだな。


 ツルギのディスプレイで観客席を拡大して見てるだけでも飽きそうにない。

 完全にファンタジー映画の世界である。

 俺は青白い顔をした美形の青年魔族を指さした。


「おっ、見ろよ。あいつ、悪魔みたいな翼があるぜ。かっけーな」


「セイヤさまのかっこいいの基準がわかりません」


 俺の背後で言ったのはエスティカだ。

 魔王が負けた時の向こうの出方がわからないので、念のためコクピットに連れてきた。


 ……本当は、いないほうがやりやすいんだけどな。


 俺が本気でツルギをぶん回した時にかかるGは強烈だ。

 加圧できるパイロットスーツを着せてはいるが、エスティカは一発で意識を失うだろう。

 ツルギが俺の専用機であるゆえんである。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 俺がつぶやいていると、


「……はぁーっはっはっはっはぁぁっ!」


 と、上空から笑い声が聞こえてきた。


『急降下してきます。ティアマトに類似したドラグフレームです。』


 クシナダが言った直後、試技場に真っ赤なペイントの大型機が降り立った。

 竜の形状をしたそれは、パズルのように組み変わり、人と竜の中間のような形態へと変化する。

 体高は16メートルとすこし。

 ティアマトと異なり、竜人形態になっても色は真っ赤のままだった。ただし、変形とともにルビーのように輝いてる。


「どぉだぁ、異星の客人んんっ! これが魔王専用機マジェスティックほむら一式だぁっ!」


 目の前の機体からお子様魔王の声がした。


「でかいな」


 ティアマトもツルギよりすこし大きかったが、このマジェスティックなんちゃらはもっとデカい。

 ツルギの体高は13メートル。3メートル以上見上げる格好だ。


「むろんっ! 大きいだけではないっ! 輝炎剣ブレイジングブレイドぉっ!」


 マジェスティックが両腕を交差させてから、それぞれの手を左右に払う。

 その手の中に、炎が生まれた。

 その炎を、マジェスティックのマニピュレーターが握り潰す。

 炎は伸びて、二本の火炎の剣へと姿を変えた。


「おおっ、かっけーな!」


「であろう、であろう」


 おもわずスピーカーで言った俺に、マジェスティックが満足げにうなずいてる。

 パイロットの魔王ではなく、機体のマジェスティックの方だ。

 生身の人間のような自然なしぐさだな。


 ……そういや、ドラグフレームの操縦系ってどうなってんだ?


 ゴブリンⅡはこれでもかというほど簡略化され、直感的にわかりやすいインターフェイスになってたが、それはパイロットがゴブリンだからだろう。

 機体性能は火星の作業用ロボットに劣るくらいだが、知能の低そうなゴブリンにでも扱えるというのは、火星のMAにはない大きな特長かもしれないな。


 だが、エース機であるドラグフレームは、ゴブリンとは操縦系からして違うはずだ。

 飛行形態の操縦だって必要なわけだしな。


『あの炎の剣はどのように出してるのでしょう? プラズマでもビームでもないようなのですが。』


「法撃の応用です。魔法をドラグフレームで増幅し、あのような形に変えているのです」


「じゃあ、あの剣は魔王ちゃんの魔法なわけか」


 機体は魔法を増幅してるだけで、根っこは魔王の魔法ってことだ。

 乗り手を選びそうな仕組みだな。


「ま、魔王ちゃんって……」


 エスティカが絶句してるあいだに、試技場に真っ白い塗装のゴブリンⅡが入ってきた。

 色からして、レフェリーのような存在だろう。


「これより、異星の客人セイヤ・ハヤタカとレヴァメゼク魔王陛下の公開試技を執り行う! 両者、死力を尽くして戦うこと!」


「むろんだっ!」


「異存はない」


 レフェリーの言葉に、魔王と俺が同意する。


「それでは位置について――始め!」

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