27 ティアマトのパイロット
「ふむ。実に興味深い話だ」
ツルギの隣を歩くティアマトからパイロットの声が聞こえてくる。
ティアマト相手に敗北した後、俺はティアマトにツルギとエスティカの存在を明かした。
隠せるものなら隠したかったが、この状況ではどうしようもない。
せいぜい協力的な態度を見せておこうってわけだ。
別の星から来た……なんて話、真に受けるものかどうか心配したのだが、ティアマトのパイロットは「そうか」とつぶやいただけだった。
ツルギは、戦闘機動こそできないものの、ふつうに歩く程度なら問題ない。
今はティアマトの先導で、俺とエスティカをコクピットに乗せ、魔国へ向かって移動中だ。
複座への改修は終わってないが、なんとか仮設のシートはできていた。
俺たちの左右と後ろは、かろうじてまだ動けた二機のゴブリンⅡとボストロールが固めてる。
俺たちが捕らえていた帝国の騎士たちも、ゴブリンⅡの手のひらに乗せられ運ばれていた。
エスティカは、俺の後ろに増設されたガンナーシートに座って、リミッターの秘術を大急ぎでかけてくれている。
ティアマトのパイロットにはツルギの不調は原因不明と言っておいたからな。
魔王陛下とやらへの拝謁が叶う前に、ツルギのメビウスマターすべてにリミッターをかけてしまいたい。
俺は、ツルギの隣を歩む竜人型の機体を見る。
体高はツルギより1メートルほど高い。
パワーもありそうだが、さっきの戦いでは強力な法撃をメインにしていた。
いや、あれですら加減して使っていたのではないか。
……戦闘機動ができるようになったとして、このドラグフレーム――ティアマトに勝てるか?
まぁ、勝てるだろう。
まちがいなく楽勝だ。
これは俺の驕りではなく、クシナダが戦力差を計算し、戦いをシミュレートした結果である。
さっきのティアマトの法撃よりは、ツルギのミドルレンジビームザッパーのほうがはるかに強力だ。
ドラグフレームの装甲はゴブリンたちとは比べ物にならない強度のようだが、最大出力の対艦刀を受け切れるとは思えない。
ツルギは宇宙での運用を主として設計されてるが、大気圏内でも十分に戦える。
大気による機動力の減少やビーム兵器の減衰のことを差し引いても、まず負けることはないだろう。
まだわからないことが多いから、決して油断のできる相手じゃないけどな。
ティアマトの飛行形態から人型への変形は高度なものだった。
高度さに見合うほど効果的な設計かはさておくとしても、さっき乗ったゴブリンⅡなどとは次元の違う技術によって造られてる。
こちらの想像の斜め上を行くような未知の兵器や機構を有してないとは言い切れない。
「……なあ、ティアマトのパイロットさん。要塞とやらまでどのくらいかかるんだ?」
俺たちが今向かっているのは、魔国の前線基地である「要塞」だ。
「その『ティアマトのパイロット』という呼び方はやめろ」
パイロットが冷たい口調でそう言った。
「じゃあ、名前を教えてくれよ。こっちはちゃんと名乗ったよな?」
「ああ、そうだったな。国ではわざわざ名乗ることもないから失念していた。私の名はリリス・セルナンドゥ。魔国では竜の
「へえ、お偉いさんだったのか。でも、そんなに偉いやつがパイロットなんてやってていいのか?」
「人間の国では知らんが、魔国では優秀なパイロットであってこそ地位が保障される」
「はぁん。実力主義なのか。そいつはいいね。だが、あんたは貴族でもあるんだろ? 貴族であることと実力主義は矛盾しないか?」
「そうだな。いかに初代が優れたパイロットであろうと、
「わかるぜ。英才教育ってわけだ。人間、ガキの頃がいちばんものごとを吸収できるもんだからな」
『それに加えて、優秀なパイロットを婿や嫁に迎えて、血筋を改良するのではありませんか?』
「どちらも正解だ。とすると、貴様らのいう『別の星』とやらでも同じようなことがなされているのだろうな」
なされてるも何も、ここにいる俺自身がその集大成みたいなもんだ。
遺伝子を調整され、人工子宮で「培養」され、生まれた後も物心つく前から重力の強化された衛星で戦闘訓練に明け暮れた。
そこで、エスティカが言った。
「マギウスについて、魔王陛下にお伝え願えますか?」
「むろんだ、人間の姫よ。われら魔国にとっても重大な事態だ。それに、魔王陛下の目であり耳である私は、見聞きしたことをすべて、ありのままで陛下にお伝えしている」
「ふぅん。肩の凝りそうな生き方だな」
「よく言われる」
ティアマトのパイロット――リリス
その後も散発的な会話のみをかわしながらティアマトとツルギとその他は歩き続け、日が暮れる頃に「要塞」へとたどり着いた。
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