26 ドラグフレーム(2)
「ここは帝国領なんだろう。侵入者がいたから撃退しただけだ」
「ほう。たいしたものだ。帝国にかように腕の立つパイロットがいたとは初耳だ」
「一応、手加減はしたぞ。今日のところはそいつらを連れて素直に帰ってくれないか?」
「そういうわけにはいかん。魔王陛下がこの付近にこれまでにない異質な波動を感じたとおっしゃられたのだ。その調査のために私はここにやってきた」
ドラグフレームのパイロットが言葉を切った。
「その異変に、貴様はからんでいるのだろう?」
「いや、知らねえな」
「ふん。素直に吐くとは思っておらん。私にとってはさして興味のあることでもないしな」
「じゃあ、見逃してくれよ」
「貴様の事情に興味はないが、生身でマギフレームを奪い、数に勝る敵を倒した貴様の実力には興味がある」
パイロットの言葉とともに、ドラグフレームが変形した。
竜の頭があおのけ、その下から人型の頭部が出現する。
竜の腕は、肩のほうに裏返って肩当てになり、その下からは籠手のついた人型の腕が現れた。
全身が、ルービックキューブのように組み変わる。
ほんの数秒で、ドラゴン型の機体が翼と尾を持つ竜人型の形態へと変わっていた。
全身の色も、暗い赤からエメラルド色へと変わり、輝きを増している。
「おお、すげえ!」
おもわず感嘆の声を漏らす俺に、
「そうであろう。陛下から賜ったこのティアマトはすばらしい。機能美と造形美の融合した完全無欠のドラグフレームなのだ」
「いやぁ、戦っても勝てる気がしねえな」
このゴブリンとあれとでは、いくらなんでも機体差がありすぎる。
最初期のメビウスアクチュエータと最新鋭機くらい――いや、それ以上の性能差がありそうだ。
「貴様には期待しているぞ。つい先ほど逆境を切り抜けたその腕で、この私とティアマトに抵抗してみろ。最近は手応えのある相手がめっきりいなくてな」
パイロットの言葉とともに、ドラグフレーム・ティアマトが構えをとった。
ティアマトの胴部中央にあるエメラルド色の水晶が鈍く輝く。
「法撃か!?」
向こうのパイロットの精神波を感知し、俺はフットペダルを蹴飛ばして横に転がる。
俺のゴブリンがさっきまでいた場所を、エメラルド色の光線が貫いた。
「ほう! 今のをかわすか! 面白い! もっと踊ってみろ!」
ティアマトは、その場から動かず、俺に向かってエメラルドの光線を連発する。
「うわっと、おおおっ!」
俺は何度となく法撃をかわす。
木立が吹き飛び、地面がえぐれる。
法撃の着弾地点は、融けて飴色に変わっていた。
「ふはははっ! 面白い、面白いぞ、貴様! 魔王陛下に仕える気はないか!? いや、仕えられては私と戦えぬか!」
法撃の気配を察知してフットペダルを蹴る。
だが、今回は反応が鈍かった。
エメラルド色の法撃をかわしそこね、俺のゴブリンの片足が消えた。
「くそっ、キャパシタが空になったか!」
マギフレームがツルギ同様メビウスマターによって動力を得てるとしても、急な動作には一時的に多くのエネルギーが必要になる。
メビウスマターの出力は一定だから、急場に備えてエネルギーを蓄えるキャパシタが必要だ。
そのキャパシタも、短期間に無理な機動を繰り返せば空になる。
人間が連続でダッシュやジャンプを繰り返せばいずれ動けなくなるのと同じことだ。
「ふん。もう終わりか。貴様の腕がいかによくとも、乗っている機体がそれではどうしようもあるまい」
「……ちっ。悔しいが、その通りだな」
「では、私に従ってもらうぞ。何、いきなり処刑したりはせぬ。貴様らは異常現象の生き証人だからな。素直に話す限りは、身の安全を保証しよう」
ティアマトのパイロットがそう言った。
『ここはおとなしく従いましょう。エスティカとも話し合った結果です。』
クシナダが言ってくる。
「ツルギはどうするんだ」
『隠そうとしてもすぐに発見されるでしょう。一時的に鹵獲されるのは避けようがありません。しかし、この星にとって未知のテクノロジーについて話せば、交渉の材料にはなるでしょう。』
「すみません。秘術も急いだのですが、全体の二割ほどしか終わりませんでした」
エスティカが暗い声で言ってくる。まぁ、もともと一晩かかるって話だったからしょうがない。
要するに、この局面は詰んだってことだ。
「……わかった。今から出る」
俺はティアマトのパイロットにそう言って、ゴブリンのコクピットから外に出た。
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