25 ドラグフレーム(1)

「……ふう。ま、ざっとこんなもんよ」


 敵から奪った機体で敵部隊を撃破した俺は、狭苦しいゴブリンⅡのコクピットの中でつぶやいた。


『お疲れさまでした、セイヤ。いい巴投げでしたよ。』


「ああ、原始的だが、思ったより反応のいい機体だった」


 俺の言葉に、通信の向こうでエスティカが言う。


「ゴブリンⅡは歴代の魔王が手を加えてきた魔王軍の主力機で、帝国のセンチネルより性能は上と言われてますが……今見たことが信じられません……」


「とりあえず斥候は退けたが……どうなんだ? 魔王軍はこっちの存在に気づいてるのか? いや、気づいてるってほどじゃないが、何か異変があったことを察知して、斥候を送りこんできたってことか?」


『おそらくは。しかし――』


 その時、最初に倒したゴブリンⅡから、何かが上空へと飛び出した。

 「何か」は、上空で破裂し、赤く着色された煙を撒き散らす。


「ちっ、信号弾か!?」


『警告。上空、三時方向から高速で接近する機体1。』


「空だと!?」


『映像を映します。』


 俺のヘルメットの内部に、上空の映像が映った。

 ツルギが森の樹冠の上に伸ばしたアンテナから撮影したものだ。

 映像の真ん中にあった小さな点が、クシナダの操作で拡大される。


「なんだ、ありゃあ……」


 それは、空と同じ暗い赤色に塗られた機体だった。

 いや、これを「機体」といっていいのかどうか。

 その機体は、人型ではなく、翼を広げたドラゴンのようなフォルムをしていた。


「ドラグフレーム!? 魔王軍はドラグフレームまで出してきたのですか!?」


 エスティカの声には隠しきれない畏れが滲んでいる。


「知ってるのか!?」


「魔王軍の有する最強の機体です。全部で何機あるかは不明ですが、選ばれた竜人ドラゴニュートにしか操縦できない特殊な機体だと聞いてます」


「空を飛んでやがるな。あの重たそうな翼で羽ばたくのか……」


 エネルギー効率が悪そうだな、と思ったが、その迫力はなかなかだ。


「逃げる――のは無理か。やるしかねえってことだな」


「無茶です! ドラグフレーム相手にゴブリンでなんて!」


「だが、逃しちゃくれそうにないぞ」


 ドラグフレームは、信号弾の発信源であるこちらを見据えている。

 両翼にたっぷりと空気をはらませ、竜型の機体が降下してくる。

 腹にくる地響きとともに、ドラグフレームが着地した。


「――これはどういう事態かな?」


 ドラグフレームから声が発せられた。

 中性的な声だ。

 ピンと張りつめた玲瓏な声には、人間的な温かみを感じない。

 まぁ、この状況を見て温かく対応されたらそのほうが驚きだが。


 俺が倒したマギフレームから、ゴブリン(パイロットのほう)たちが転げ出た。

 ドラグフレームに向かって平伏しつつ、事情を説明しているようだ。


「……ふむ。たかが人間ひとりに、魔王陛下から賜った大事な機体を奪われた上、三対一にもかかわらず、手も足も出ずにひねられた……そう言うのだな?」


 ドラグフレームのパイロットが、冷たい声音でそう確認する。

 ゴブリンたちは、地べたに頭を擦りつけ、必死の形相で言い訳をしている。


「ふん。本来であればこの場で踏み潰してくれるところだが、今回は異常な事態のようだからな。特別に見逃してやろう。いつまでもそうしているな。目障りだ。のけ」


 パイロットの言葉に、ゴブリンたちがあわてて森の中へと逃げこんでいく。


「さて、そこのゴブリンのパイロット」


「……なんだ?」


「申し開きはあるか?」


 ドラグフレームのパイロットが、冷徹な声で言ってきた。

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