24 機体奪取(2)
「のろのろするな!」
俺は時間を稼ごうとするゴブリンに蹴りを入れ、ゴブリン(機体のほう)の背中から突き落とす。
ひどいようだが、急がないと他の機体にやられかねん。
問答無用で撃ち殺さなかっただけマシだろう。
「ちっ、狭いコクピットだな。操縦は……二本の操縦桿と二つのフットペダルか」
コクピット内には粒子の荒いディスプレイ。
前方120度くらいの視野しかない。
ツルギの全周ディスプレイに慣れた身からすると目にゴーグルでもつけられてかのような視野の狭さだ。
「マギフレームは発掘品なんだったな。このディスプレイはもともと備わってたもんか。文明レベルから考えて、ディスプレイなんか作れるとは思えない」
俺はゴブリンⅡを動かしてみる。
フットペダルで左右の足がそれぞれ動き、操縦桿で腕が動く。
腰の回転は操縦桿をひねればいい。
「ふぅん。わかりやすい操縦系だな」
悪く言えば原始的、よく言えばシンプルで直感的な操縦系だ。
複雑化の一途をたどるツルギのインターフェイスとは大ちがいだな。
「じゃあ、行くぜ!」
奪ったゴブリンⅡの足もとで、パイロットだったゴブリンが騒いでる。
もう一機のゴブリンⅡが、こっちに向かって走ってくる。
「フットペダルなんかでよく全力疾走できるな」
だが、それ以外にやりようがないのも事実だ。
機体制御をAI任せにするなんてシャレた機能はついてないんだからな。
俺も、左右のフットペダルをがっしょんがっしょん蹴り飛ばす。
小柄なゴブリン向けの機体なせいか、長くやってると腰を痛めそうな動きだな。
俺の操縦に従って、ゴブリンⅡが前に駆け出す。
前――敵のゴブリンⅡの眼前だ。
「へえ、思ったよりは速度が出るな!」
俺はあえて、速度を緩めず突進する。
敵のゴブリンⅡは、あわてて足を止めようとした。
だが、一度生まれた慣性はそう簡単にはなくせない。
「おらぁっ!」
俺は両方のフットペダルを引いて、操縦桿を斜めにねじる。
俺のゴブリンが、敵のゴブリンの足もとへと滑りこむ。
突然のスライディングに、敵ゴブリンが足元をすくわれた。
縦に半回転しながら俺の後ろに投げ出され、頭から地面に突っ込んだ。
「はっ、こんな原始的な操縦系じゃ受け身なんて取れねえだろ!」
敵機は、倒れたままで動かない。
機体も大きくひしゃげてる。
「止マレ!」
前方のボストロールから声が聞こえた。
「魔王軍ニ刃向カウ気カ!」
「そうだよ……っと」
俺はフットペダルをリズムよく踏んで、ゴブリンⅡでダッシュする。
「ヤル気カ!?」
ボストロールが盾を構えた。
こっちの攻撃を受け止めてから、反対の手に握ったハンドアクスで仕留めようってハラだろう。
ゴブリンⅡとボストロールでは体格差があるからな。
だが、こんな見るからに固そうなやつと殴り合いをするつもりなんてさらさらない。
俺は、ステップを踏んで盾の横へと回りこむ。
そのままボストロールを迂回して、背後に隠れたアークデーモンに肉薄する。
「シマッタ!」
ボストロールのパイロットが声を上げる。
俺は、アークデーモンにフレイルを振るう。
「ナ、何ヲヤッテル!」
アークデーモンがうろたえながらも一歩下がる。
が、フレイルは空振りだ。
しかも、弾みのついた鉄球が、フレイルを握った腕を撃つ。
ゴブリンⅡの
「つ、使いづらっ!」
毒づくあいだに、アークデーモンが片手をこちらに突きつける。
「猪口才ナ! 衝撃ヨ、我ガ敵ヲ撃チ砕ケ!」
エスティカを助ける時、追っ手の騎士たちから感じたのと同じ――いや、それを十数倍に増幅したような危機感が走る。
魔法――いや、
「させるかよ!」
俺は、アークデーモンの伸びきった腕を両手でつかむ。
そして、両足のフットペダルを同時に引く。
俺の乗るゴブリンⅡはバランスを崩し、後ろに向かって倒れこむ。
「ヌオオオッ!?」
アークデーモンは、ゴブリンⅡよりあきらかに重い。
だが、パイロットが法撃に集中してたせいで、機体の重心が上がってる。
全体重をかけるゴブリンⅡに、アークデーモンが前にのめる。
コクピットに衝撃。
ゴブリンⅡの背中が地面に着く。
その上に、アークデーモンが覆いかぶさるように倒れてくる。
その腹に、ゴブリンⅡの短い足を押し当てて――
「っせええええい!」
後ろに向かって、アークデーモンを投げ飛ばす。
俺の後ろからは、ちょうどボストロールが迫ってきたところだった。
もちろん、計算づくの位置どりだ。
「ヌオッ!」
「グアッ!?」
金属の衝突する音が森に響く。
アークデーモンとボストロールがもつれあいながら木立にぶつかった。
胴体をひしゃげさせ、二機のマギフレームが動きを止める。
そこに、へし折れた森の木々が倒れ込む。
「グギャッ!」
「グエエッ……」
倒れた巨木の下敷きになり、二機は完全に動かなくなった。
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