23 機体奪取(1)
「魔王軍のマギフレーム――二機いるずんぐりした小型がゴブリンⅡ、長細いのがアークデーモン、太い盾持ちがボストロール、指揮官機は……アークデーモンのようですね」
俺がヘルメットからツルギに送った敵の画像を見て、エスティカがそう説明した。
エスティカは、ツルギのコクピットの中に入ってもらった。
そこがいちばん安全だろうからな。
ホログラフでの通信に驚きつつも、エスティカはおっかなびっくり敵機の解説をしてくれる。
一方、俺は生身のままで森の中に身を潜めている。
物音を立てないよう気をつけながら、敵機の群れに近づいていく。
「注意すべきは?」
「アークデーモンは法撃機ですので、魔法に気をつけてください」
「了解だ」
魔法に気をつけろとか言われても困るんだが、
俺は、四機の進行方向にトラップを仕掛けた。
ワイヤーが引っ張られると地雷が空中に飛び出すだけのシンプルな罠だ。
……しかし、なんだってやつらはここに?
エスティカの話じゃこの辺はまだエスティカの国の領土らしいが……。
地表面積が地球の二十五倍という広大な惑星だから、国境線がきちんと引かれてるのはむしろまれ。国境は、漠とした中間領域として認識されてるらしい。
だから、魔王軍のマギフレームが、威力偵察のような形で帝国側に深入りしてくるのはよくあることなのだという。
……それにしたってピンポイントすぎる。
まさか、ツルギの出現を察知したのか?
俺とツルギがこの星に現れた時に何が起こったかは謎のままだ。
しかし、もし魔法がらみの現象なのだとしたら、魔王とやらのなんらかの警戒網に引っかかった可能性はある。
考えてるあいだに、魔王軍の斥候たちが近づいてくる。
先頭は、エスティカがゴブリンⅡと呼んだマギフレームだ。
体高は6メートルほど。ツルギの半分もない。
猫背でずんぐりとしたフォルムで、まだらな紫に塗装されている。この森の中では保護色だ。
ゴブリンⅡは二機いるが、装備などに違いは見られない。
武装は……鉄球を鎖で垂らした棍だけか。
フレイルって言うんだったっか?
遠心力を利用して衝突の威力を増すのが狙いなんだろうが、先端の鉄球に十分な勢いを乗せるまでにちょっと隙がありそうだよな。
取り回しの悪そうな武器だ。
身軽で小型な分、奥にいる他の機体より小回りが利くようだ。
木立を避け、こちらへと向かってくる足取りはしっかりしてる。
部隊の斥候役ということか。
その奥では、盾を持ったボストロールが、法撃機だというアークデーモンを守るように立っている。
ボストロールは、体高8メートルくらい。
地球の相撲取りを思わせる体型の、低重心の機体だった。
機体のカラーは濃い黄色だ。
よく目立つ色なのは、敵の注意を惹きつけるためだろう。
右腕に固定された無骨な盾は、半身を隠せるほどの大きさがある。
盾を持ってないほうの手にはハンドアクス。
がたがたに刃こぼれしてるが、切れ味はあまり問題ではないんだろう。
その背後に、エスティカから注意されたアークデーモンなる機体が続く。
体高9メートルと背が高いが、その代わりにか胴が細い。
逆三角の鋭角なフォルムで、細く長い腕が特徴的だ。
塗装は暗めの赤。
手にはチェーンウィップを持っていた。
「……ふぅん。おもしろいもんだな」
他の惑星の人型機動兵器は、なかなかの見ものだった。
俺はべつに兵器マニアではないが、
……っと、そろそろだな。
先頭のゴブリンⅡが、俺の仕掛けたワイヤーを引きちぎる。
対戦車地雷が飛び出し、ゴブリンの鼻先で爆発した。
ゴブリンは仰け反り、地響きを立てて尻餅をつく。
「行くぜ!」
俺は木陰から飛び出すと、ゴブリンの背をよじ登り、コクピットの入り口に取り付いた。
大半の軍用機には、非常時に外から開けられるような仕組みがある。
故障した機体からパイロットを救出するのに、ハッチがロックされていては不都合だからだ。
そういう仕組みがあったからといって、戦闘中に機体に取り付き、コクピットに入りこんで機体を奪おうとする敵なんてまずいない。
「ま、ここにいるんだけどな」
俺はコクピットのハッチを力づくで開くと、中に向かってハンドガンを突きつける。
「動くな!」
「ウギギイ⁉」
狭いコクピットの中にいたのは、緑色の肌の小鬼だった。
子どもくらいの背で、髪がなく、額に二本の小さなツノがある。
白目が黄色く、黒目が赤い。
「ゴブリンにゴブリンが乗ってるのかよ。――手を挙げて降りろ!」
ゴブリンは、俺の警告を無視し、パイロットシートのそばにある短剣に手を伸ばす。
俺はその手を容赦なく撃ち抜いた。
「グギャアア!」
「言葉は通じてるな! 降りないと次は頭を撃つ!」
「ワカッタ、ワカッタ!」
ゴブリンはカタコトで言いながら手を挙げ、シートベルトを外してコクピットから這い出した。
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