22 接近

 食事が終わった頃、不意にクシナダが警告を発した。


『何者かが近づいて来ます。サイズからしてマギフレームでしょう。数は四です。』


「どのくらい距離がある?」


『4キロほどです。マギフレームの索敵範囲は不明ですが、今のところは気づかれてません。』


「帝国の斥候か?」


『いえ、エスティカから聞いていたのとは方角が違います。』


「まさか、魔王軍ですか?」


 と、エスティカが不穏なことを言い出した。


「魔王だって? まったく、この星はなんでもありだな」


『魔王とはどのような存在なのでしょう?』


「数十代にわたってエスティカの広い領域を支配する魔族たちの王です。数十代と言いましたが、魔王は代々転生者で、同一人物だといわれています」


『転生。生まれ変わりという意味ですか?』


「魔王が死ぬと、部下たちがエスティカ中を駆け回って、魔王の生まれ変わりである新生児を探します。その新生児を引き取って、あるいは強奪して、魔国の幹部は次代の魔王に仕立て上げます。新生児は前代魔王の知識を受け継いでいるというのですが、真偽のほどはわかりません」


『では、一大勢力の主であるという認識でよさそうですね。その斥候であるマギフレームがこちらに向かってくると。』


「魔国のマギフレームは精強です。魔王は転生者としての知識でマギフレームの改造ができるとされています。もっとも、一から製造することはできないようなのですが」


「……逃げられるか?」


「いえ、ツルギが移動すれば、魔国のマギフレームならば気づくでしょう」


『交渉可能な相手ですか?』


「人間を道具としか思っていない、魔族の国です。私とセイヤさまは殺され、ツルギは格好の研究材料にされるでしょう」


「どう転んでも敵ってことか」


 話してるあいだに、俺の耳にも重い足音が聞こえてきた。


 俺は音の方向、森の奥をじっとにらむ。

 ヘルメットの暗視機能とサーモグラフィが働いて、森の奥に複数の巨大な人型の熱源があることがわかった。

 全長は……機体ごとに6から9メートル。

 ずんぐりした人型の輪郭全体から、もやのような無指向の精神波が漏れている。精神波は目に見えるわけじゃないけどな。


「ふぅん。ツルギと違ってメビウスマターが全身に分布してるのか。まるで筋肉みたいだな。この星でのメビウスマターの出力ならこんな無茶も可能か。エネルギー効率は悪そうだが」


『制御系は、……まさか、ワイヤーコントロールですか?』


「そりゃ、コンピューターもない文明レベルなら他に方法がないだろ。地球の古い時代のレシプロ機みたいだな」


 初期の航空機は、尾翼や主翼の舵を切るのに、操縦者がペダルを踏み、ペダルにつながったワイヤーを通してその力を舵に伝える……なんていうおそろしく効率の悪い方法を取っていた。


「ヴァーチャルコンソールなんて絶対ねーな。あれじゃ、機体を歩かせるために、自分の足で歩く以上の力がいりそうだ」


 操縦方法は、でっかい竹馬をつけて歩くのと変わらない。


『本来であればツルギの敵ではないのですが……』


「パワーはそれなりにあるっぽいから、複数で取りつかれたらマズいだろうな」


『どうします?』


「わかってて聞いてるだろ。いつも通りだ。敵地に単身乗りこむなんてよくあることだ」


 俺は、腕をぐるぐると回し、屈伸して、身体の動きを確かめる。


「あ、あの……逃げないのですか?」


 エスティカが戸惑った顔で聞いてくる。


「見せてやるよ。火星流の戦い方をな」


『いえ、あなた流の戦い方ですよ。』


 クシナダのつっこみを聞き流しつつ、俺は戦闘の準備に取りかかった。

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