21 改良人間
着替え終わったようなので、俺はコクピットのほうを振り向いた。
ピンクのパイロットスーツは、エスティカによく似合ってる。
軍事用のスーツなのに派手すぎるのでは……と思うかもしれないが、宇宙条約によって宇宙艦のクルーは明るい色のスーツを身につけるよう定められている。
宇宙に放り出された時に、敵・味方問わず救助しやすくするためだ。
もっとも、火星と地球の関係が悪化するに伴って、相互の乗員を区別せずに救助するなんて慣行は消え失せた。
俺の視線に気づき、エスティカが頬を赤くする。
「ちょっと落ち着きません。か、身体の線がこんなに出て……」
「似合ってるぜ」
「あ、ありがとうございます……。あの、それでさっき言いかけていたことは?」
「年齢のことだよな。俺は遺伝子をいじられてるから、こんななりだけどたぶんエスティカより年上だ」
「えっ……おいくつなんですか?」
「この星の公転周期は地球と一緒なんだったな。俺は今年で二十七だよ」
「えええっ!? てっきり、まだ十代なのかと」
「重力強化コロニーで育ったから一般的な火星人より背が低いし、アジア系の遺伝子がベースだからコーカソイドやニグロイドより若く見えるってのもある」
「と、とてもそれだけには見えません」
「老化しないように改良されてるんだ」
「火星では人間の身体をも作り変えることができるのですか……」
エスティカが心底感心した様子でそう言った。
「そういや、エスティカはいくつなんだ?」
『セイヤ。レディに年齢を聞くものではありませんよ。』
「ああ、自然人の文化ではそうなんだっけ。改良人間は聞かないとわからないから、わりと遠慮なく聞いてたんだ。気を悪くしたらすまん」
「いえ、こちらからお聞きしたのですから……。帝国では女性に年齢を聞くのはそこまでタブーというわけでもないです。まして、第一姫の私の年齢なんて、聞く人に聞けばすぐにわかります。私は今年で十九歳です」
「へえ。大人びて見えるな」
「そ、そうでしょうか」
帝国の第一姫として幼い頃から責任を負わされてきたからか、立ち居振る舞いが大人びてる。
戦いに明け暮れてきた俺なんかより、よほど精神的に成熟してる。
火星の改良人間用カリキュラムには礼儀作法なんざなかったからな。
俺の言葉に、エスティカはなぜか照れた様子を見せている。
クシナダが、呆れた口調で言ってきた。
『セイヤはあいかわらず天然の女たらしですね。』
「はぁ? なんでそうなる。推論の根拠を言え」
『そんな野暮なことはしませんよ。』
「後部シートはどうなった?」
『一応、座れるようにはなりましたよ。戦闘機動を想定するなら、まだ改修が必要ですが。』
「じゃあ、今夜はコクピットで安全に寝られるな」
「えっ、あの……ここで眠るんですか?」
エスティカが驚いて言った。
「そうか、1G下だと、座ったままの姿勢じゃエコノミークラス症候群の危険があるな。でも大丈夫だ。シートは倒せるし、ツルギの姿勢を調整すればほぼ水平の状態で寝られるから。寝返りもなんとか打てる」
「いえ、そういうことを言ってるのではなくてですね……」
『セイヤ。エスティカは、若い男女が狭い場所で一緒に眠ることを懸念しているのですよ。』
「なんでだ? 心配しなくても、保護対象者に不必要な接触なんてしないぞ。火星の軍規に違反する」
『……やれやれ。セイヤはこんな人ですし、私も見張ってますから、エスティカさんも安心して眠ってください。』
「あ、いえ! セイヤさまを信用してないわけではなくてっ……一般論としてですね……なんなら何かあってもかまわないと言いますか……」
「え? なんて言ったんだ?」
「な、なんでもありません! もう!」
エスティカが頬を膨らませてそっぽを向いた。
……何がなんだかわかんねえな。
でも、嫌われてはなさそうだし、まぁいいか。
改良人間としての切り替えの早さを発揮しつつ、俺はワイヤーでコクピットから降りる。
『寝ないのですか?』
「せっかく食いもんを取ってきたんだ。焼いて食う」
『その前にスーツのスキャナで害がないことを確認してくださいよ?』
「わーってるよ。エスティカもひと段落したら一緒に食おうぜ」
「は、はい!」
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