17 メビウスマター(1)
『なるほど。マギウスは自己を複製し、増殖するウイルスのような存在だというわけですね。それも、おそらくはヒトを取りこむ必要があるのでしょう。』
と、クシナダが話をまとめる。
「パイロットを呑みこむ人型機動兵器か。ぞっとしねえ話だ」
『セイヤの見ていたホラー映画にありましたね。人がとっくの昔に死に絶えた世界で、残されたロボット同士が果てることなく戦争をしている。』
そうささやきあう俺とクシナダに、エスティカが言った。
「私はこのことを他国に知らせなければなりません」
「いいのか? そんなことをすればおまえの国は……」
「……よくは、ありません。他国が立ち上がりこの事態に対処するということは、私の国が解体されるということです。代々守ってきた
でも、他に方法はありません。放っておけばマギウスは帝国を呑みこみ、自己を増殖してこの世界を覆うことになるのですから。
世界の名を名乗る巫女として、この事態を見過ごすわけにはまいりません」
エスティカの目には決意の色があったが……それ以上に焦燥と困憊が濃いように見えた。
「クシナダ、エスティカのメンタルチェックはしてるよな?」
『はい。抑うつ状態に陥る一歩手前ですね。宗教従事者であることから、乖離的な精神傾向も強いようです。責任感が強く、自分を追いつめる、典型的なタイプAパーソナリティをしています。精神安定剤の服薬と、安全な場所での長期の療養が推奨されます。』
「だよなぁ。精神安定剤の生産は?」
『コクピットのメディカルボックスで生産済みです。渡してあげてください。』
「了解」
俺は昇降用ワイヤーでツルギのコクピットに戻り、メディカルボックスから薬とウォーターパックを取る。
ワイヤーで地面に降りて、クシナダに薬とウォーターパックを手渡した。
「これは……?」
「辛い気分を緩和する薬だ。副作用はないから安心して飲め」
「でも、今は……」
「エスティカ。責任感が強いのはいいけどな、そんなに張りつめてちゃじきに倒れるぞ。俺の星じゃ、休むのも仕事のうちって言うんだ」
「それは……そうですね。ありがとうございます、セイヤさま」
淡くほほえみ、エスティカは存外素直に薬を飲む。
「どれくらいで効くんだっけ?」
『三十分ほどでしょう。』
……ふと思ったが、エスティカと地球人類の体質が違うって可能性もあったな。
精神波が共通な以上、精神構造やその化学的性質も共通だろうとは思うが。
クシナダが大丈夫と判断してるなら問題ないか。
西暦を使ってた頃から存在するようなメジャーで安全な薬だし。
『それで……どうするのです、セイヤ。』
クシナダが訊いてくる。
「うん? まぁ、なんとかしたくはあるな。ツルギさえ動けばな」
「えっ、あの……何をおっしゃっているのです?」
エスティカが困惑の声を漏らす。
「何って、そりゃ、聞いちまった以上はなんとかしないと。マギウスとやらをぶちのめせばいいだけの話なんだろ?」
俺の言葉に、エスティカがあぜんとした。
「なっ……まさか、私の話を聞いた上で、マギウスと戦うと?」
「敵は即座にぶちのめすのが俺の主義なんだ。生かしておいても何もいいことはないからな」
エスティカが絶句する。
「ただ、この星に降りてからツルギが不調でな。さすがに生身でマギウスとやらと戦うのは避けたいとこだ」
「あ、あたりまえです!」
『セイヤ。ひとつ思いついたことがあります。』
「お、なんだ。もう何か閃いたのか?」
『ええ。エスティカの魔法ですよ。メビウスマターがこの星に来てから暴走気味であることと、エスティカや騎士たちの使う『魔法』なる現象。飛躍した仮説ではありますが、この二つをイコールで結んでみるというのはどうでしょうか?』
「そうか。向こうでも正体不明だったメビウスマターは、この惑星エスティカの『魔法』と関連があると。そういや、メビウスマターは精神波と干渉することがあるんだったな」
『ええ。月での戦いで絶体絶命のピンチに陥った時、メビウスマターの出力が急に向上したことがありました。改良人間であるセイヤの強力な精神波が干渉したものと思われますが、それ以降は同様の現象を観測できていません。』
「なら、実験してみよう。エスティカがメビウスマターに干渉できるかどうか」
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