16 マギウス(2)
「私は、騎士団のマギフレームを奪って、マギウスに長距離法撃をしかけました」
しれっと言ってのけたエスティカに、俺は大きく仰け反った。
「おいおいおい!」
『それはまた、ずいぶんと思い切ったことをしましたね。』
「私もまた、正気ではなかったようです。エスティカが――その、世界のほうのエスティカが、私に取り憑いて叫んでいるようでした。あれを破壊せよ、と」
『巫女としての霊感というわけですか。』
「はい、そのようなものが実際にあります。はっきりと意識には上らないのですが、私の心身に何かが宿るような……」
「で、法撃っていうのはどうなったんだ?」
「法撃というのは、マギフレームで魔法を増幅して行う大規模魔法攻撃のことです。マギウスのいる城の中枢を狙って、帝都の郊外から仕掛けました」
「帝都がどのくらい広いかわかんねえけど、相当な長距離攻撃だな。巫女にはそんなことまでできんのか」
「いえ、巫女だからというわけではなく、私はもともとマギフレームの操縦を趣味にしてましたので……」
「趣味……でやるもんなのか?」
「ふつうはしませんね。巫女の立場を濫用してると言われれば否定できないところです。優れたパイロットのような反射速度はありませんので、機体操縦はどんくさいのですが、長距離法撃は得意でした」
エスティカがくすりといたずらっぽく笑う。
「私の法撃は、あやまたず帝城を吹き飛ばしました」
「しれっと言ったな……」
「人の少ない時間を狙いましたが、巻きこまれた人がいないとは言い切れませんね。犠牲を織りこんだ上での攻撃です。皇女としては失格かもしれません……」
エスティカが暗い顔をする。
「いや、政治家はそういう判断を迫られることがどうしたってある。どっちを選んでも人が死ぬ。そんな状況は、戦争中ならしょっちゅうだ。
エスティカの判断が正しいかどうかは、後世の歴史家が判断することだろう。
それでも、俺の個人的な意見を言わせてもらえば、エスティカの判断は正しかったと思うね」
「……ありがとうございます、セイヤさま」
エスティカがわずかに涙をにじませ、うつむいた。
『それで、マギウスはどうなったのです?』
「わかりません。法撃の直前に、マギウスは私を察知したようです。視られた、という感覚がありました。それがおそろしくて、私は法撃のあとあわてて逃げ出しました」
「よく逃げられたもんだな?」
「それが、覚えていないのです……無我夢中で。気づいたら、乗っていたマギフレームは大破していて、近くにあったバギーを奪って逃げました」
『状況からすると、帝国のマギフレームと交戦したのではないですか? かなり絶望的な状況に思えますが……』
「世界が私を動かしていたのですから、奇跡的なことが起きても不思議ではありません」
「だが、マギウスは健在か。追ってこれない程度には打撃を与えた可能性はあるけどな」
「どうでしょうか……わかりません。ただ、マギウスを放っておいたら大変なことになります」
「だろうな」
マギウスの狙いが何かはわからないが、既に神聖巫覡帝国を掌中に入れたのは確実だ。
問題は、帝国を乗っ取って何をする気かだが……。
『――マギウスは、マギフレームの生産技術を伝えませんでしたか?』
クシナダの質問に、俺の背中が泡立った。
「そうなのです。マギウスが伝える知識は、あきらかに偏っていました。フロートバイクは布石にすぎないと思います。帝国の生産技術を引き上げ、最終的に目指しているのはおそらく――」
「マギフレームの量産、か。現状じゃ発掘するしかないマギフレームを生産できるとなったら、帝国はこの惑星の覇権を握れるな」
「それだけなら、まだいいのですが。私が危惧しているのは、もっとおそろしい可能性です」
「なんだって?」
問い返す俺に、エスティカは、自分の言葉をおそれるかのように、ためらいながら、その言葉を口にした。
「――
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