18 メビウスマター(2)
「なら、実験してみよう。エスティカがメビウスマターに干渉できるかどうか」
「あ、あの……?」
「ああ、すまん。順を追って説明するよ、クシナダが」
『そのあいだにセイヤはメビウスマターのソケットから予備のシリンダーを取り出してください。』
「あいよ」
クシナダがエスティカに説明するあいだに、俺はツルギの腰部に取りつき、装甲を外して奥にあるソケットからメビウスマターのシリンダーをひとつ外す。1G下なのでずっしり重い。
「取ってきたぜ」
『では、実験しましょう。エスティカ、メビウスマターを見て、何かを感じますか?』
俺はシリンダーを開き、カートリッジ状に成形されたメビウスマターを取り出した。
メビウスマターは、紫がかった銀色の金属で、オーロラ色の光沢がある。
オーロラの色はゆっくりと遷移していく。
じっと見ててもいつ色が変わったかわからないくらいゆっくりしたものだが、ふと気づくといつのまにか色が変わってる。
初めて見た時は、何かに化かされたような感じがした。
メビウスマターはエネルギーを放つが、放射性物質のように人体に有害な作用は持ってない。
エスティカは、メビウスマターを一目見るなり「あっ!」と叫ぶ。
「
「なに? 知ってるのか!?」
「知ってるも何も、マギフレームやドラグフレームの動力源です」
エスティカの言葉に、俺は驚きつつも納得していた。
「そりゃそうか。1G環境で大型の人型ロボットを動かせる動力なんて限られてる」
太陽系では、メビウスマターの他には核融合炉しか存在しない。
小型のロボットならバッテリーで動かせばいいのだが、戦闘用の大型機動兵器となれば話は別だ。
バッテリーで動力をまかなうこと自体は絶対に不可能なわけじゃないが……重いのだ。
バッテリーで重くなった分、余計にバッテリーが必要なんてことになってしまい、機動兵器の重量のほとんどをバッテリーが占めるようなことになりかねない。
もっとも、メビウスマターの使えない地球連邦の戦艦なんかは、核融合炉と超巨大バッテリーのハイブリッド推進を採用してる。
『朗報ですね。この惑星エスティカでも、メビウスマターは手に入る。となれば、高すぎる出力を調整する方法も見つかるかも……』
「これほどまでに高密度に圧縮された
『予備バッテリーですからね。本体はこれと同じシリンダーが48本束ねられています。』
「よ、48、ですか! そんなことをしたら、
『ええ、実際それに近い状態になっています。火星では、メビウスマターの放射するエネルギーはいまよりだいぶ少なかったのです。この星での出力は火星の時の倍に近い水準です。』
「あれ? それなら、メビウスマターのカートリッジを半分下ろせば元の水準で動かせるんじゃないか?」
ふと思いついて俺が訊く。
『そんなに単純な話ではありませんよ。メビウス・アクチュエータは火星の工業技術の精華なのです。ソケットが半分も空の状態では、制御系がまともに働きません。』
エスティカが、顎に手を当て、考え込んでから口を開く。
「……そういうことなら、お手伝いできるかもしれません」
「本当か!?」
「ええ。
『エスティカでは出力の振れ幅も大きいですからね。』
「はい。ですので、
「リミッター……まんまだな」
『では、エスティカさんがツルギのメビウスマターにリミッターの秘術をかければ、出力の問題は解決するということですか?』
「おそらくは。ただ、量が量なので、秘術をかけるのに時間はかかります」
「どれくらいだ?」
「一昼夜あればなんとか」
俺は、おもわずエスティカの両手を取った。
「頼む!」
「えっ、そ、その、助けていただいたお礼もできてないことですしっ……」
『セイヤ。エスティカが困ってますよ。レディに気安く触れるものではないと、キリナにも注意されていたでしょう?』
「あっ、すまねえ。つい……」
「い、いえ……」
あわてて手を離す俺。エスティカは頬を赤くし、うつむいてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます