14 エスティカ
「……本当に、信じられないようなお話でしたね」
ひと通り話を聞き終えたエスティカが、ため息まじりにそう言った。
「でも、信じます。あなたたちが私を担いで得するとは思えません。なにより、助けていただいたかたをお疑いするつもりなど最初からありません」
「俺たちが追っ手の仲間でひと芝居打ったとは考えないのか?」
「セイヤさまの実力なら、そんな回りくどいことをせず、ただ私を捕まえればいいじゃないですか。実際、捕まえてましたし」
「わかってくれたならありがたい」
俺はほっと息をつく。
「ということは、セイヤさまとクシナダさまは、私の事情をまったくご理解いただけていなかったということですね?」
「ああ、すまん。あまり常識がないように思われると危険かと思ったもんでな」
「たしかに、『エスティカ』の名からして知らないとなると、この世界では奇異の目を向けられるでしょうね」
「そんなに特別な名前なのか? 君の名前は」
俺の問いに、エスティカがこくりとうなずく。
「はい。といっても、私が世界に名前が知れ渡るほどの有名人というわけではありません。いえ、それなりに有名ではあるのですが」
「どっちなんだよ」
首をかしげる俺を、エスティカがしげしげと見る。
「……本当に、他の『惑星』のかたなのですね。異なる太陽を戴く未知の星、ですか。途方もないお話です」
「ロマンがあるだろ? ま、帰り道がわからなくて困ってるんだけどな」
「ふふっ。セイヤさまはおもしろいおかたですね。
ええと、すみません。私の名前の話でした」
エスティカが小さく咳払いをする。
「エスティカ。この名前は、この世界の――ええと、セイヤさまのお言葉ではこの『惑星』そのものの名前なのです」
「ええっ」
つまり、火星人が「火星」って名前だったり、地球人が「地球」って名乗ったりするようなもんか。
火星代表のキリナはミズ・マーズなんて呼ばれたりもしてたが、それはあくまでもあだ名であって本名ではない。
「――魂の巡る地エスティカ。それがこの世界の名前です。そして、この世界の魂の循環を祀る巫女姫の名前でもあります」
「てことは、君は……」
「はい。神聖
俺はおもわず息を漏らした。
……なんともまあ、すごい縁もあったもんだ。
もちろん、エスティカが嘘をついてる可能性もある。
こっちを宇宙人と見て、有名人を騙ってるという可能性もな。
でも、パッと見た感じ、そういう雰囲気には見えるよな。
巫女風の服装だけじゃない。
よく言えば責任感の強そうな、悪く言えば気負って張りつめてるような、重責を背負わされたもの特有の緊張感を漂わせてる。
昔のキリナそっくりだ。
『しかし、その世界と同じ名を持つ帝国の姫が、なぜ追っ手になど追われているのです? 彼らは正規の軍人のように見えましたが。』
クシナダの冷静な指摘にハッとする。
たしかにそうだ。
どうしてそんな立場の人間が追われるはめになってるのか。
エスティカは、ため息をついて言った。
「……こちらも、負けず劣らず長い話になりますよ。信じられないような話かもしれません」
このセリフはクシナダへの意趣返しかな。
エスティカは意外に皮肉屋なのかもしれない。
政治なんてやってると自然に皮肉屋にもなるわよ――キリナがそう言ってたのを思い出す。
「かまわないよ。どうせやることもないし。ついでに、右も左もわからない」
『この惑星でも、右は右だと思いますよ?』
「クシナダは退屈するとこういうつまらないジョークを言い出すんだ。いや、退屈してなくても言う。こっちが切羽つまってる時にも忘れず言う」
「ふふっ。おかしなかたたちですね。たしかにマギウスではないのでしょう。あれは、ユーモアを解するような存在ではありません……」
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