13 誤解を解く
「マギフレーム……マギウス? 俺はそんなものは知らないし、ツルギはそのいずれでもない。落ち着いてくれ」
「落ち着けません! 私を懐柔するための罠だったのですか⁉」
「まいったな……」
何の情報もない状況では、彼女の誤解を解くのは難しい。
穏やかな感情波を送って宥めるか?
……いや、ダメだな。
エスティカは感情波の扱いに長けている。
さっきの秘術みたいなことができるんだ。
俺が宥めるつもりで感情波なんて出したりしたら、俺の意図を見抜いて今以上に警戒するだろう。
俺とエスティカは膠着状態に陥った。
どうすんだ、これ?
と、俺が思ったところで、ツルギの外部スピーカーから、空気を読まない声が流れ出た。
『セイヤの言った通りです。エスティカさんは、当機を何か別のものと取り違えているものと推測されます。さらに推測を進めるなら、それはエスティカさんが逃亡者となる原因となった存在なのでしょう。当機はその勢力に与するものではありません。』
「なっ……しゃべった!?」
エスティカが目を見開いた。
『落ち着いてください、エスティカさん。当機は「マギウス」ではありません。M.A.R.S.所属の特別遊撃パイロット、セイヤ・ハヤタカの専用機である、メビウス・アクチュエータ「ツルギ」です。ちなみに私は、ツルギに搭載された戦術AIで、「クシナダ」と申します。』
「……なにがなんだかわかりません……」
エスティカが眉をひそめてつぶやいた。
そりゃそうだ。
『話すと非常に長くなります。信じられないような話かもしれません。』
「そもそも、エスティカにとっちゃ大型の人型機動兵器って時点で信じられん話だろうしな……」
と、俺は思ったのだが、
「いえ、たしかに大きめではありますが、マギフレームやドラグフレームに比べて特別に大きいわけでは……」
「えっ……」
『ふむ。どうやら、この惑星には当機のような人型ロボットが存在するようですね。』
「銃も知らなかったような地球中世レベルの文明なのにか?」
『フロートバイクやバギーには高度な文明の影が見られます。文明の発展レベルがまだらなのかもしれません。途上地域に先進テクノロジーが持ちこまれ、旧世代のテクノロジーをスキップして爆発的に普及するリープフロッグ現象が起きているのではないでしょうか?』
「なるほど。文明レベルが低いと決めつけるのは危険だな。問題はどこが先進地域で、その文明レベルがこちらより上か下かだが……」
『フロートバイクやバギーの性能から察するに……』
「ち、ちょっと待ってください。話が錯綜していて理解が追いつきません!」
エスティカが俺たちの会話にストップをかける。
「たしかにな。俺が話すと混乱しそうだから、まずはクシナダから説明してもらおうか」
エスティカにわかるようにこっちの事情を整理して説明するとか、めんどうすぎてやりたくない。
こういうのはやっぱAIに任せるに限るよな。
『そうですね。では、まずはわれわれの故郷である火星について――』
長い、長い話が始まった。
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