11 第三種接近遭遇(1)
「なんだ、いまのは」
おそろしく緻密な精神波に包まれたかと思ったら、お姫様の言葉が明瞭に聞こえた。
いや、明瞭に……じゃないな。
言語は未知のもののままなんだが、その意味だけがはっきりわかるようになったんだ。
「王家に伝わる秘術です。異郷の者とも言葉を通じあわせることができるようになります」
さらりとお姫様が答えてくる。
「秘術って……まるで魔法だな」
地球にも、精神波の扱いに長けた者は存在する。
修行を積んだ宗教者の一部には、驚くほどに強い精神波を放てる者がいる。
逆に、精神波を身体のうちに漲らせ、他者の精神波を弾き返す――なんてことができるやつもいた。
実際、俺もそのくらいのことまではなんとかできる。
だが、今このお姫様がやったような、精神波を精緻に編み上げるなんて真似ができるやつはいなかった。
驚きを隠せない俺に、
「あなたさまも、先ほどは魔法を使っていたではありませんか」
お姫様がきょとんとした顔で言ってくる。
「魔法だって?」
「はい。とても小さな
「あー……銃と念話のことか」
彼女には、ハンドガンが魔法に見えたのだろう。
念話は……まぁ、魔法のようなものと言われて一概に否定できないところはある。
「秘術」とやらも精神波を利用してるみたいだったしな。
「あらためてお礼を言わせてください。おかげさまで助かりました」
「ああ。さっきも言ったんだが、行きがかり上助けただけだから気にするな」
「なんと高潔なかたでしょう。見ず知らずの人間を助けたばかりか、恩に着せるそぶりすらお見せにならないとは……」
お姫様が感じ入ったように言った。
アクアマリンのような透き通った瞳に敬意まで宿して見つめてくる。
……落ち着かねえな。
俺は、頬をかきながら言った。
「すまんが、その馬鹿丁寧な言葉遣いはやめてくれないか? こちとら育ちが悪いもんで、尻がむず痒くなってくんだ」
「そ、そうおっしゃられても、どう話せばいいのか……」
本心から困った顔をするお姫様に、俺はおもわずつぶやいた。
「あんたも、型にはめられて育ったクチか」
「『も』?」
「ああ、いや……」
俺は改良人間として戦うための型にはめられて育ったし、キリナは火星入植以来代々続く職業政治家の跡取りとして育てられた。
このお姫様もその類かと思っただけだ。
そういえば、まだ名前すら聞いていない。
「俺の名はセイヤ。セイヤ・ハヤタカだ」
「こ、これは失礼を。私はエスティカと申します。素性は……名前からお察しいただいている通りかと」
……いや、全然お察しいただけてないんだが。
この惑星の住人にとって、「エスティカ」というのは特別な意味を持つ名前らしい。
だが、俺にとっては当然ちんぷんかんぷんだ。
ちょっと間を置いて、説明が続くのを期待してみるが、彼女の口からそれ以上の説明は出てこない。
――やべ。どうしよう。
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