それは美しい光景だった。

夜は黒に沈む虹鏡の大通りには数多の灯が並び、地上の星空のように輝いている。そして空には願いと誓いを込めた天灯が、天を目指して昇っていく。


天と地、二つの星空は画家であれば筆をとり、詩人であれば詩を詠み、己の感じるままを表現しただろう。


だが地上の誰より高い場所で、その光景を見下ろす彼は、画家でも詩人でも、ましてただの人間でもなかった。

そして何より、誰しもが見惚れるこの美しい景色にすら、何も感じていない。



『人形か、お前は』



地に四人しかいない彼の同胞は、いつかに彼をそう蔑んだ。

それすら、彼は何も感じなかった。


彼の心は生まれる前から凍り付き、生まれてからも溶けたことがない。

その日は永遠に来ない。そのように決まっている、はずだった。




それは少女だった。


黒髪を赤と黄の組紐で結わえ、浴衣で歩く。

周りに溢れかえるものと、特別何かが違うわけではない。


それなのに目に入った。


それなのに目が逸らせない。


ふと、それが隣の男を見上げた。



その白い横顔に。こちらを見ない茜色の瞳に。



火が熾った



ああ、あつい、熱い、熱い、熱い


燃えている


心が燃えている




―――だいじょうぶ、ひとめでわかるから




あれだ


あれだ、あれだ、あれが、



あれがいると、狂ってしまう


あれがいると、罪を犯してしまう


あれがいると、自分は自分でいられない



だから



早く、はやく、はやく、燃やし尽くして、消さなければ




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