□□□の記憶



柱の陰から、じっとその人を見ていた。

その人は他の人と話していた。けれど私に気付くと、枯れた葉っぱ色の目がこちらを向いて、


「―――」


名前を呼ばれたので近づいていくと、頭を撫でてくれた。

暖かい、落ち着かない、恥ずかしい、やめてほしい、もっと撫でて欲しい。


「―――、おいで」


葉が色づいてとても綺麗なんだ、とその人は笑った。

繋いだ手も温かかったけど、笑った顔を見た時の方があったかい気がする。火鉢がなくてもぽかぽかするのだと、初めて知った。



はらりはらりと紅が散る


ひらりひらりと黄が踊る



「同じだね」


風に揺れる黄色は、この人の色だった。


「銀杏はうちの色なんだ」


だからこの人は特別だといわれている。家の色をもった、特別な人。

光に透けて輝く黄金色は、大嫌いな金色に似ていたけど、この人の色は嫌じゃない。


「だからもちろん、嫌いではないが。俺は―――の色の方が好きだな」


紅と黄金に色づく先、あの人は空を指さして


「優しくて、暖かい」



光が灯った。小さくて、優しくて、自分にしか見えない光。


ただ色づいただけの木々を、疎ましい赤に似た空を、初めて美しいと思った。




私はこの光景を、死ぬまで忘れないだろう




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