挿話 ■■■の記憶



「貴女には失望した」


正義ぶって糾弾してくる青い目の男に、はあ、と息をついた。

失望はこちらの台詞だ。いや、諦観か。


婚約者が“あれ”の生まれ変わりだと気づいて、嫌な予感はしていたのだ。

しかも同じようにあの女の周りを囲うのは、赤に緑に橙と、神代の悪夢の再来かと思っていた。


「彼女に嫉妬して嫌がらせなど―――」


蛇蝎の如くこちらを嫌っているくせに、自分は好かれていると思うなど、どれほどおめでたいのだろうか。

並べ立てることのどれもこれも、身に覚えのないことだ。


碌に視界にも入ってなかっただろうに、いつ私の存在を思い出したのか



馬鹿馬鹿しいことだ。しかし世間は彼らに味方する。

そういうものだ。ずっとそうだった。どれほど愚かで自己陶酔に浸ったクソ野郎でも、世界は彼らを祝福し、は弾かれる。


――――ああ、本当に、嫌になる



「おい!まだ話は「戯言を聞くのはうんざりよ。証拠があるなら正当な方法で訴えなさい」


馬鹿に背を向けてこれからのことを考える。

準備はしていた。すぐに家に帰って話が出る前に首都を出よう。幸い、が薬売りだったので旅の知識はあるから―――


ごぼりと、吐いた息が泡になる


あっという間に体の周りが水に覆われ、息が出来ずに倒れこんでも、まとわりつく水の外には出られない。


ああ、あああああ、くるしいくるしいくやしい、くそ、こんな


頭の中でわたしたちが嗤う


――――ほら、だから言ったじゃない。信じるなんて、無駄なこと


でも、でも、はじめてともだちができたから、かぞくとだって、うまくやってたのに


――――でもみーんな旭を信じたよ?どんなに良い子でいたって、わたしたち、すぐ捨てられたじゃない


だからこんどは、いきたいって、おもったのに


伸ばした手は水を搔いただけ、もがく力もなくなった


誰か、誰か、ねぇ、お願いだから


水に映る人影たちの嗤い、蔑み、侮蔑が歪む。友達だった、家族だった、でも誰も助けてくれない。這いつくばって苦しむ私に、駆け寄ることも、クソ野郎共を止めてくれることもない。


――――わたしたちに助けなんて来ないよ、わたし


わかってる、わかってる、、ただ


――――もう諦めようよ、わたしたち



ただ、誰かに手を握って欲しかった


こんな冷たいところで、独りで死にたくないよ






********



彼女の視界は歪んでしまって、駆け寄ってきた誰かには気づけないのでした


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