赤いヒールの女

ツヨシ

第1話

ハイキングに行った時のことだ。

それは何度も行っているハイキングコースだ。

慣れたもので、コースを外れて何回も山の中に入った。

しかしこれがいけなかった。

何度目かの時、戻ろうとしたのだが戻ることができなくなった。

完全に山の中で迷ってしまった。

――まずいぞ、こりゃ。

こっちじゃないか、あっちに違いないとずいぶんとさ迷った。

疲れもあり、途方に暮れて立ち尽くしていた時のことだ。

木々の向こうの少し離れたところに、若い女が歩いているのが見えた。

俺の手前が盛り上がっているので上半身しか見えなかったが、間違いなく白いワンピースの女が歩いているのだ。

あそこだ。

俺は女の後を追った。

ほどなくして細い山道に出た。

崖のすぐきわにある道だ。

今、軽装の女が俺の前を背を向けて歩いている。

白いワンピースはまだいいとして、なんと女は赤いハイヒールをはいているのだ。

とても山の中に入る格好ではない。

――なんだ、あの女は。

とは言え、俺はこの山道を知らない。

なので女の後をつけることにした。

山の中で女一人だ。

俺に気づいたら逃げ出してしまうかもしれない。

そうするといろいろと厄介だ。

俺は極めて静かに女の後を追った。

そしてすぐ横が崖ということもあり、女の歩いたところを歩いて行った。

すると踏み出して草を踏んだはずの俺の右足が、地面に届かなかった。

俺はそのまま崖下に落ちた。

――いってえっ。

落ちたところは草地だった。

身体のあちこちが痛かったが、深刻な怪我はしていないようだ。

草を踏んだ時にすでに気づいていたが、見上げてあらためて確認した。

俺が踏んだのはただ横に長く伸びた草の葉だった。

そこに地面はない。

しかし俺は見ていた。

細長い草の葉しかないところ、子猫でも落ちてしまうような草の上を、あの赤いヒールを履いた女は歩いていたのだ。


       終

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赤いヒールの女 ツヨシ @kunkunkonkon

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