爆発するパソコン
昔、コンピュータというものは操作を誤ると爆発するとマジに信じていました、
今となってはギャグですが、当時の私にとってそれほどまでにコンピュータは未知の代物で畏怖の対象でした。「コンピュータ=危険物」という認識が私の中にありました、
初めてパソコンを買ったのは、ウィンドウズ95が発売されて間もなくでした。
大枚をはたいて買ったノートパソコンが机の上にありました。それまでワープロ専用機がせいぜいだった私に文明の利器の初お目見えでした。ワープロもじゅうぶん文明の利器に思えるかもしれませんが、パソコンは別格だったのです。
ひとり、説明書を読むのも大概に、さっそく電源を入れました。
無事に電源がつきました。カラー液晶の奇麗な画面です。
私はあちこちをおっかなびっくり操作しました。このころにはまだチュートリアルという概念はありませんでした。
そして今日のために買っておいたパソコン雑誌から付録のCDロムを取り出しました。一番やりたかったことです。
CD起動。美しい絵と音楽です。
CDの中のギャグ雑誌を一通り読んで笑ったあと、私はとうとう本日のメインイベントにとりかかりました。
18禁ゲームの体験版です。
美少女が描かれた大きなウィンドウが華麗なBGMとともに開かれました。
うれしはずかし初エロゲ。
文明開化にじゅうぶん満足し、気がつくと時間がずいぶんとたっていました。
もうパソコンをやめよう。
そう思ってゲームを中断しようとしたのです。
……操作がわかりません。
停止アイコンが画面外へ消えてゲームを終わらせられないのです。基本的なことを理解しないまま始めた私は画面のスクロールや切り替えすらできなかったのです。
焦って画面にあるものをクリックしまくりました。しかしらちがあきません。
ゲームの起動アイコンをもう一回押しました。オンだったものがオフに切り替わるかもしれません。
エロゲのウィンドウがもうひとつ増えました。
BGMもひとつ増え、二重のBGMがパソコンのスピーカから響きわたりました。
いっそう焦りました。
私にはいったん立ち止まらないという悪癖がありました。
ゲームの起動アイコンを押しまくりました。
押すたびにエロゲのウィンドウが増えました。
現在のウィンドウズなら同一ゲームは簡単に開かないようになっているかもしれませんが、95はそうではありません。アイコンを連打するとそのたびにエロゲのウィンドウが開きました。叩いてみるたびエロゲが増える。ひとりブラウザクラッシャー状態です。
このころのパソコンはべらぼうに低性能で、エロゲが十いくつも開いた負荷で、ゲームの華麗なBGMはのっそりとした低い不協和音へと変調していきました。時間差で重なるBGM。デデ~ロ~デデ~ロ~♪ まるで呪いの音楽です。
パニックになりました。テンパりすぎてウィンドウのすみにある×ボタンに眼がいきません。それさえ押していけば一個ずつエロゲは閉じるのに。
家族の助けを借りることもできません。このパソコンの画面全てがエロゲだからです。
パソコンの電源を直接切るか? 私は迷いました。買ったばかりのパソコンが壊れしまうかもしれません。
そのうちにパソコン本体が熱くなってきました。尋常じゃない熱さです。
熱い!
パソコンが爆発する!
私の脳裏に、操作を誤ったコンピュータが爆発するさまがリアルに想像されました。
デデ~ロ~デデ~ロ~♪
真の恐怖でした。
ワラにもすがる思いでマニュアルを読もうとしましたが、その前に初心者用の手引きの紙に眼が行きました。
一番最初にこう書いてありました。
「パソコンはめったなことでは壊れません」
……パソコンの電源をおそるおそる切りました。
パソコンはオフになり、エロゲ画面は消え、呪いのBGMは鳴りやみました。
熱かったパソコン本体の温度も無事に冷めました。
安堵しました。
パソコン大爆発はまぬがれたのです。
パソコンは壊れないと書いてくれた人、ありがとう! 心から! 本当に!
……あれからはこのような失敗はしなくなりましたが、最初のチャレンジは今でもトラウマです。
なお私のパソコン機種は、初期不良によって高温化するためにメーカー回収対象となりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます