第95話 そしてエピロ―グへ。

「実を言いますとシルちゃんには相談済なんです」


 栞はオレとジェシ―が昨日医務室に居た時のことを話し始めた。オレが『どちらの判断』をしたとしても側に居れるように。


「どんな相談」

「それはですね。もしもの話、つまりは『ifイフ』ル―トとでも申しましょうか。斎藤君がシルちゃんの騎士位ナイトになった場合、ぶっちゃけどうやったら斎藤君の側に居れるか。国をまたいでスト―キングするのも、有りちゅうたら、有りなんですけど。案ずるよりは産むが易しと言いますから聞いてみました」

 相変わらずの行動力だ。栞には断られるという未来予想はないらしい。


「簡単な…というか、実際は相当細かな適正検査をされました。AIによる適正検査でしたので負担はゼロです。あと常和台ときわだい高の前庭でのバトルとでも申しましょうか、その時の映像の分析結果なんですが――」

「うん」


「斎藤君と同じ武官での適正アリとなりました。何でも飛び道具のAIもあるらしく、適正者はかなり稀だそうで。それと武官候補生になるには二重国籍にならないとです。まぁ、二十歳までにはラ―スロ公国籍にならないとです」

「そんなこと言ってたな。大丈夫なのか?」

「ここは親に聞かないとですけど、大丈夫でしょう。なにせ弟妹5人いますから! 働いて食い扶持を減らすのは願ったり叶ったりです」


 人数の問題じゃないことはわかってるのだろうが、今は危険かどうかには触れたくないのかと思いきや、すぐにそのことに触れて来た。


「なので、斎藤君がラ―スロを選んだ場合、安心して私に背中を任せられる訳です。因みにどうするか聞いてないですけど、舞美ちゃんは文官候補なんで危険は低いんじゃないでしょうか。勝手なこと言いますが」

「そうだな」


「どうしました? 口数が少ないですね。私は昨晩斎藤君を、ジェシカさんに取られちゃいましたから、お構いなしに話しますよ? つまり私が言いたいのは斎藤君が常和台ときわだいに戻るなら、私もスク―ル・ガ―ルに戻ります。この場合ヒロイン枠は、実の妹さんの舞美ちゃんを除けば、私だけなんですよ! なので密かにおススメル―トだったりで。まぁしかし、ラ―スロル―トでも私は負けませんよ! つまり何が言いたいかといいますと――」

 そして栞は決め顔でこう言った。


「私は斎藤順一のスト―カ―ですから」

 カッコよく決めた栞は颯爽とその場を去った。オレはシルさんともう一度話をしたいと思っていたが、公務の関係上時間が出来ずこの日は自宅に帰ることになった。


 □□□□

 それから数日オレは自宅待機をした。あれだけの事件があったのだ。現場検証やら事情聴取やらで学校自体休校になっていた。オレは相変わらずシルさんと話さないでいた。公務が忙しいようだ。


 オレのあらかたの事情聴取は済んでいた。あの場に大勢いた報道関係から証拠の映像もある。実際オレが戦ったのは中友連邦ちゅうゆうれんぽうのエージェント。しかも不法滞在。そしてそれ程大けがをさせた訳じゃないので、特におとがめはなさそうだ


 オレはケガもあり、自室でゴロゴロとジェシ―と携帯で話をしていた。


 何でも、今回の事でシルさんのお姉さんオドレイさんが『恋する乙女』への配慮として、監視されないスマホをジェシ―は貰っていた。そしてジェシ―は現在療養中というわけだ。外で会うまでの許可は出てなかった。


「順ちゃん。うわの空だね…あの娘のこと考えてるの?」

 あの『シチュエ―ション・ト―ク』以来オレに対しては『16歳』に徹していた。

「ん、まぁ…そうかな」

 ジェシ―が言う通り、うわの空な返事を返した。

「それって、君。浮気だね?」

「そういうんじゃ……」

 否定もどこかうわの空だ。


「冗談。ちょっとお嬢さま公務が立て込んでるの。お嬢さまも順ちゃんのこと気にしてる。その…この先のこと。そんなこと言われても情報少なすぎて、決めらんないかって……一応言ったけど、当面は候補生だから合わなきゃ辞めれるよ?」

「うん……」


 オレは生返事と共に、通話を切った。ジェシ―には悪いが、そういうんじゃない。何がどう違うか、はっきり言葉に出来らばなんだけど。


 オレはモヤモヤした感情を振り切るように部屋を出た。廊下で舞美に出くわした。

「少し出てくる。帰りは……ちょっとわからん」

「うん。骨折してんだから無理しないように」

『てってって―』と階段を上がっていく、舞美のショ―トパンツがあまりに短いのが気になり注意した。久しぶりに『キモっ!!』と言われたくて。


「ご安心ください、お兄さま。家の中しかはきません。べ―っだ!」

 おっと、このパタ―ンな! ちょっと油断した。こうなるととことん『キモ

 い』と言わせたくなる。きっと今の『べ―っだ!』はキモいの1歩手前なハズ。ここは攻めの一手だ。


「舞美、ダメだろ。そんな走って階段上がったら『はみパン』するぞ」

 階段の一番上で舞美は固まった。よし! これで間違いなく『キモい』ゲットだ。オレはなんでこんなことにこだわってんだろ。


 舞美に『キモい』って言われるのが…オレの日常なのかも。オレはまだ、どうするか決めれてない。どっかで舞美に『キモい』って言われたら、日本での日常を選んでもいい。そんな風に考えていた。


「もうっ、順兄ぃの―――えっち。ばか」

 ん……そう来たか。斜め上行く妹だって、忘れてた。しゅあない、自分で決めに行くか。オレは始まりの場所に行くことにした。約束も何もないけど。



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