第90話 そして幕は降ろされる。
「兄さん、どういうことだと思う?」
マイたんは『うみねこ』のリ―ダ―、
「斎藤順一。信じがたいとは思うが、休戦協定を結ばないか。それから、可能であれば『共闘』する事を勧める。あいつら4人は我々『互い』の脅威だ。虫がいいが、オレたちは敵じゃない。信じる信じないではなく損得勘定で動いてくれ」
間違いなく『虫のいい話だ』しかしジェシ―専用AIは4人組を『
オレは
つまり、オレたち側だとするなら所属は明確にわかっているはず。だとすれば『
仮に何らかの罠だったとしても、ひとりでも多く倒しておくに越したことはない。それにうまく時間が稼げれば警察が来る可能性が増す。
(100パ―じゃないが、敵でもない。今は時間を稼いで警察が来るまで粘りたい)
オレはマイたんの耳元で囁いた。マイたんは軽く頷き納得した。オレたちより後方に下がった栞にはアイコンタクトしたものの、あからさまに栞は拗ねた。
(めんどくぇなぁ…もう)
そう思いながらもオレは小走りで栞の所に向かいご機嫌を取った。案の定栞の機嫌は秒で治った。それはいいが次はマイたんだ。
「兄さん、栞さんを特別扱いし過ぎ。マイたんやる気ゼロ」
「近すぎると、見えないものだな……ホント気持ちって」
「言葉にされないと、わかりません!」
「世界で1番愛してる」
「
「うれしいけど、無理すんなよ」
マイたんは極上の笑顔を浮かべる。これを見るだけでも今日1日頑張った甲斐がある。ヤンデレからのシ―ソ―感が溜まらん。これは本家『舞美』では経験出来ないことだ。
オレたち兄妹は言いくるめられた訳ではなく、純粋な損得でフロウの隣に立つことにした。挨拶する間の無く、戦端は切って落とされていた。後処理の関係上か、敵は銃器を使わない。流石に『モザイク・ミスト』が使用出来ない現状、逃亡する際足が付き兼ねない銃の使用は控えたようだ。
だからと言って相手戦力が低くなるわけではない。恐らく選りすぐりのエ―ジェントであることは間違いない。そんな低くない戦力から、フロウはまずひとりを戦闘不能に追い込んでいた。そして隣に並ぶオレたちを見て、拳を差し出した。慣れ合う気はないものの、マイたんに小突かれ渋々拳を合わせ共闘を誓った。
持久戦に持ち込みたいところだが、敵は敵で短期決戦を望んでいる。それはそうだ。敵にしてみたら、今からオレたちを倒し警察が来る前にシルさんを拉致するならオレたちよりも余程時間がない。前掛かりになるしかない。
焦りはオレたちより相手にある。焦りがある分、ひとつひとつの攻撃に重みがある。激しく、連続技を打ち込んでくる。削り取ろうとする、そんな感じだ。実際、その攻撃は
マイたんは特に短期決戦型だ。オレだって左腕が折れて使えない状態で持久戦は無理だ。なので今の状況は、相手が前のめりになっているのは逆に有利に働いた。
削りに来たところを、ひとりまたひとりと削り落せばいい。そういう意味ではフロウと急遽組んだのが幸いした。
彼の武器はトンファ―。敵の攻撃をうまく受け流し、素早く攻撃へと移る。近接武器として決してリ―チが長いわけではないトンファ―だが、彼の流れるような動きから繰り出される攻撃は伸びがあり、相当な攻撃範囲を持っていた。
一撃、一撃は決して重いわけではない。一撃で相手を戦闘不能に追い込める訳ではないが、フロウが初打で敵の動きを遅延させオレが『デジタル・レイピア』で沈黙させる、更にマイたんがとどめの一振りで戦闘不能に追いやる。
オレとマイたんでさえ、戦闘に関しては初めて組んだに近い。しかしフロウを含めた攻撃は急ごしらえの『スリーマンセル』とは思えない出来だ。
敵をふたり戦闘不能に追い込み、3人目に打撃を打ち込んだフロウは奇妙な動きで身を伏せた。
そこに疾風の如く、風を切り裂く一矢が放たれた。栞による後方支援だ。忘れていたわけではないオレたちは『フォ―マンセル』なのだ。
しかし何処かで栞は射てこないと勝手に思っていた。味方の背後から矢を放つ、余程腕に自信がないと出来ない。いや、余程の覚悟がないと出来ないことだ。
矢を構え、放つまで。必ず脳裏を過るだろう。
『味方に当たったらどうしよう』そんな思いが。栞はそんなギリギリの緊張感を乗り越え支援してきた。オレは栞の静かな覚悟に胸が震えた。
そして敵は栞の矢を躱すのがやっとだ。しかし栞が放った矢により、こちらには中距離武器が存在することを改めて意識させた。
それが功を奏したのか、ふたりになった敵は後退りしながら、負傷した仲間を置いて撤退した。
この瞬間長く続いた戦いに幕が降ろされた。敵勢力の撃退に成功し、シルさんを守り抜いたのだ。
シルさん拉致未遂から始まり、オレの退学問題、事務長派による栞への脅し。そして反撃。そんなすべての事態に終焉の時が訪れた。
完全勝利だ。
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