第89話 増援。
(やはり……相性が悪い…)
『うみねこ』リ―ダ―の
(斎藤順一との相性は最悪だ)
そう感じていた。そしてフロウ自身、経験則や今感じている『嫌な予感』みたいな抽象的なことを割と信じる。
そして導き出した結論。斎藤順一と敵対するのは『相当相性が悪い』だった。では、敵対しなければどうなんだ?
そんな疑問が浮かんていた。敵対行動をしなければ『相性の悪さ』は消せるはず。しかし、僅か3名の勢力。しかも隠密行動を取っている自分たちに『中立』などあり得ない。
『中立』とは、そこそこ数的優位に立っているか、質的に勝っているか。目立っているかだ。今置かれている『うみねこ』は中友連邦から『戦犯』扱いされ、補給路を絶たれていた。
『足が付く』そんな装備も破棄している。数的優位にも質的にも、まったく優位性とはかけ離れたところにいた。
そんな自分たちなのだ。交渉を持ち掛けてくる相手すらいない。あるのは、所属していた中友連邦から差し向けられる刺客にすり潰される未来だけ。
フロウたちは、元より理解していた。メンツを重んじる中友連邦が、今更『第三皇女シルヴェ―ヌ』を拉致したところで、皇女を受け取りこそすれ自分たちに対する評価は変えない。
つまりは、ユニットの抹殺。フロウは手に取るように理解していた。自分たちもしてきたように、今度は自分がそうされる。そう、抹殺される。
伸るか反るか。そんな言葉があることくらい3人は知っていた。しかし、これはあくまで『何らかの提案』があればのことであり、彼ら『うみねこ』程の小勢に提案する勢力などありはしない。
(自ら売り込むしかない…)
長年、中友連邦のエ―ジェントをしてきたのだ。世界の半数が敵と言っていい。アメリカは元より日本も自分たちを、拘束リスト上位にしていることは知っていた。
そんな、いわくつきな自分たちを使う勢力はもう、この世界にそうない。しかも、今回のことで世界中に『面割れ』している。今迄と同じ仕事での需要はない。
そうなれば、単純なの戦闘力がセ―ルスポイントになる。そして『面割れ』していても大丈夫、もしくは『面割れ』していることで、逆に戦力としての価値が出る。
そんな場面がある。そう、要人の護衛だ。自分たちが護衛に付いていることで、手出し困難だと手を退かせる。つまり抑止力になり得ることの証明。
今自分たちに必要なのは、抑止力としての価値の証明と、敵ではない事実だ。
なので、斎藤順一及びラ―スロ公国との正面対決は望んていない。今起きている小競り合いも、計算のうちとはいえ、最小限に抑えたいところだが……
(初手でロキまで…)
手足が異常に長い細身のエ―ジェント、ロキ。彼は拳法の達人だった。数多の近接武器を自在に操り、局面を打開してきた、頼れる仲間だ。
近接武器も使えるし、素手に近い状態でも恐ろしい戦闘力を誇るロキが、序盤で戦闘不能は計算外だ。
元より斎藤順一とは『激しく敵対しない』方針ではあったが、向かってくるなら、追い払うくらいのことは許可していた。
なので。フロウにとっては予想外であり、計算外。手足の長いエ―ジェント、ロキが戦闘不能になるのは、フロウにとっては激しい損失だ。
既に1名ワンボックスを拝借して大怪我を負っている。林田の暴走させたクルマを停止させるために。そうなると現状相当にキツい。
これから迎える状況を乗り越えるには。フロウは
□□□□
「兄さん、これは…」
「うん」
オレはこの現状に困惑した。幸先よくマイたんとのコンビネ―ションで、迫りくる敵2名のひとりを戦闘不能にした。
後ひとり撃退する頃には、警察が来てシルさんと怪我をしたジェシ―を保護して貰えると踏んでいた。
しかし、更に増援が到着した。物騒な身なり、武器を隠そうともしない大胆な行動。普通じゃない。素人なんかじゃない。
シルさんを拉致するための増援としか思えない。しかも、こんな報道陣が溢れる中で。
「斉藤君、どうしますか」
矢を3度放って威嚇役を終えた栞が、真後ろに詰めていた。元々接近戦に持ち込まれたら、栞は手も足も出ない。
栞を守りながらの陣形は想定していた。飛び道具があるだけで、敵対する相手にとっては警戒度が増す。迂闊な行動が取れなくなるはずだ。
しかし今の栞の質問『どうしますか』はシルさんとジェシ―の事だ。このままここで守るか、移動させるかを聞いている。戦える戦力は限られていた。
もっとも、高い戦力と見ていたジェシ―は戦線離脱している。復帰は見込めない。
「ふたりの移動はナシだ。移動先が安全とも限らない。校舎の中も…林田と事務長はクルマの中だが、成宮が見当たらない。中にいるかも」
「そうですね、わかりました」
「じゃあ、兄さん私達は」
「シルさんとジェシ―の周りを固めよう。あと1人なら押せ押せでイケるがプラス4人となると」
オレは校門を跨いで現れた4人組。ジェシ―のAIから、もたらされる情報は『
「味方なワケないよなぁ…」
「えぇ、見るからに悪人面ですから」
栞は額の汗を拭いながら返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます