第81話 狂気の道連れ。
深いため息を―マイク越しに吐き出したのは
斎藤一派は事前に浅倉さんから共有されていたので、今から始まるであろうことは、ここに居なくても理解できていた。
古堂校長は彼らが、彼ら自身が本当に望んでいたことから着手した。
「皆さんのお怒りの深さ、悲しみや痛み、その1つひとつに寄り添えなかったことを心からお詫びします」
「校長として知らなったでは決して許されることではないですし、今後の高校運営に於いて、この教訓は活かされなければなりません」
「責任を取る――言葉にする程簡単ではなく、何をもって責任なのか、責任を取る立場である私ですが、説明は困難です」
「しかし、困難であるからこそ丁寧に取り扱わなければならないと考えております」
「まず、決定している事柄としてですが、やはり今回の一連の責任を取って私は―学校長と
「辞めることが責任を取るのか、と問われればそれは完全に責任を取ったとは言えません」
「ただ、学校運営は新しい人材に於いて執り行われるべきだと考えて今回の辞任となりました。ただ――」
彼女は回想した。父親である理事長から校長職を引き継いで、何年になるだろうと。
何人の生徒を迎え入れ、巣立って行っただろうか。何度この壇上に立っただろう。そして今自分自身が巣立とうとしていた。
しかし―まだだ。まだ、終われない。校長職を辞する。これもひとつの責任のとり方であると同時に逃げかも知れない。その自覚は古堂にはあった。
それでも、
「ここに先だち、理事会の了承を得ております。まぁ、了承なしでも結果は変えません」
『変えません』という言葉に何かよくわからないが、決意のようなものがあるように生徒には思えた。そしてその『変えない』未来を口にした。
「元事務長の
体育館はほんの少しのどよめきと、取材関係のフラッシュライト、シャッタ―音で満たされた。しかしそれは単なる序章に過ぎなかった。
「尚、この3名につきましては、警察に被害届の提出をしました。」
「被害内容に関しましては、横領及び未成年者に対する淫行、本日発生しました女性事務員小暮さんに対する暴力行為…その他3名が関わった迷惑行為すべて、可能な限り事件化し社会的制裁を与えます」
これにて幕――そんなふうに簡単には行かないが、結論のひとつがここに。すべての者が満足のいく結末を準備することは難しい。そこは司法に委ねることとなる。
□□□□
事務長室。全校集会を終え、事務長派3名は事務長室に籠った。こんな所に立てこもったところで、既に警察に『被害届を提出された』後ではなんの効果もない。
警察はその気になればこんな薄いドアなど、一溜まりない。
「どうしてくれんだ!!」
「どうしてくれると言われましても、おふたりには報いたましが。報酬なり便宜で」
「悪いが俺は抜ける。俺はあんたたちみたいに女生徒には手をだしちゃいない」
「成宮監督、それ通用するとでも?」
「事実だ」
「それでも、あんたが女生徒を脅してるとこ、生徒たち見てますよ?」
「話をしただけだ。警察に説明したら――」
「林田くん。成宮監督は案外バカなんだな」
ふたりの話を静観していた事務長が鼻で笑った。小ばかにするように。
「どういう意味だ」
「意味も何も。警察にとって、いえ……社会にとって我々は等しく『害』であり『害虫』なんです『害虫駆除』するのに『害虫』の種類にこだわるとお思いですか?」
「事務長~~脳筋にわかる訳ないですよ『おバカ』にでも、わかりやすく言わないと。成宮カントク、アンタが女生徒と『ヤロウがヤルまいが』共犯なんですよ、我々!」
「バレた以上、どんな言い訳しようが『淫行教師』『淫行監督』『淫行事務長』なんです! わかります?」
「明日でも監督のお嬢さんの薬科大学にはマスコミが溢れる訳です!! 世間は『淫行』した癖に自分の娘は『薬科大学』ってね! 許さない! みたいな? 終わりですよ、我々以上に娘さんは!!」
「む、娘は関係ないだろ!!」
「関係ありますって! 親父が淫行の手助けした金で入った大学なんでしょ?」
「どういう意味だ?」
「意味? いやいやいや。お嬢さんが入れた『薬科大』偏差値いくらか知ってます? 何よりご自分の娘さんの偏差値ご存じですか?」
「『10』以上開きがある大学に、どうやって入れるんです? 裏ですよ裏!! 事務長が『積んだ』んです」
「積んだ!? 金をか!? まさか裏口……」
「それ以外に何が? カントクが悪いんですよ? さっさと誰か抱いとけば事務長も『保険』掛けずに済んです。金だけじゃ安心出来ないでしょ?」
「そうそう、娘さんの『裏口入学』まだバレてませんよね? 協力お願い出来ますよね?」
成宮は今更ながら後悔した。娘の進学費用欲しさに口車に乗り協力してきたことを。そして引き返すことさえ出来ない現状を……
「協力すれば……」
「我々は黙ってますって、ね? 事務長?」
「ええ、もちろん。ちゃんと道連れに出来るなら」
成宮は『狂ったふたり』に乗るしか道が残されてなかった。
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