第77話 「Here we go」―ブチかまそう!

「現場デス! わぉ……なんてことでしょう…ここは日本のハイスク―ルだというのに『』の女性が! ひとまずお話を聞いてミマス! あの、どうされまシタ? 大丈夫デスカ?」


 巨大モニタ―には懐かしいシルさん『ラ―スロ公国第三皇女シルヴェ―ヌ・フォン・フェイュ』が、上品な赤茶色ブロンズの髪を横に束ね『pressプレス』と黒抜きされたカ―キのキャップを。


 マイクを手に話しかけたのは、シルさんの言った通り両手を三角巾で吊った常和台ときわだい高の事務員の小暮さんだった。


 小暮さんは『よっよよ……』と泣かんばかりに目の淵に涙を浮かべていた。それを見た浅倉さんは苦い顔して『三文役者…』と吐き捨てた。


「私はラ―スロ公国から取材に来た者デス。お名前は? お怪我どうされましたカ?」

「私―小暮優子です。通称『ゆうこりん』です」

「わぉ…ゆうこりんさん、お怪我されてるようデスガ…」

「実は……事務長に! 河副かわぞえ事務長に……きっと私が…可愛過ぎるから――ちな、両手首骨折です!」


「りょ、両手首骨折!? タイヘンです! 日本のハイスク―ル『』と突き飛ばされるのでしょうカ!? !」


 いや、シルさん…どうしましょって、どうも出来ません! シルさんの後ろでジェシカさんが小暮さんに目薬……演出甘いだろ! なにやってんの! ウケ狙ってんじゃないだろうな?


 オレは嫌な汗をかきながら、体育館の反応を見た。するとオレの焦りを他所に思わぬ方向に、火が着いていた。


「私! 見ました! 事務長が小暮さん突き飛ばしてフロッピ―ディスク取り上げてるの!!」

「オレも見た!」

「骨折って、警察呼べよ! 何やってんだ」

「っていうか、林田辞めろよ! クソが!」

「俺、成宮監督に試合出さないって言われた!!」

「何それ、喋られたらマズイことって何なんだよ?」


 林田と成宮の威圧的な態度で、抑え込まれていた生徒と感情が臨界点を越えた。その光景を隣に並んで眺めていた浅倉さんが耳元で呟いた。


「行ったわよ、順一」

「ええ、これからですから」


 オレは舞美にアイコンタクトで合図をした。舞美は見たことない、営業的『スマイル・ゼロ円』で壇上にトコトコと向かいマイクを握った。


 まるで幼稚園児に話し掛ける保母さんのように、優しく明るく、胡散臭いテンションで。ちなみに保母さんが胡散臭いと言ってるわけじゃない。


「は〜い! 皆さん、聞いてください! ワタシ、斎藤順一の妹、舞美です! 知ってる方、いますか?」

 いや…マイちゃん、なに、それ? アイドルなの? めっちゃ自信満々スマイルだけど……スベったらどうすんの?


 しかし、兄としての心配を他所に、殺気に包まれていた体育館が『ポワッと』した空気に包まれた。

『あっ、舞ちゃんだ!』

『うわっ…やっぱかわいい!』

『ま〜いちゃん〜』

 みたいな歓声。しかも、割かし女子の声が多い……あれ? 殺気立った空気はどこに?


 そしてオレにだけわかる『ドヤ顔』鼻の穴膨れてますが? どうしょ…『妹さま』が『女帝さま』に進化してねぇか? めっちゃオレの影薄いけど?


「皆さん! ありがとうございます! 私を、兄を応援してくれて。事務長派そんな人たち放っといて、?」


『続き……?』

 オレは聞こえるはずのない、事務長の呟きが聞えた気がした。


 □□□□

「突然ですが。わたくし、三崎栞は遠い異国から来たテレビの方に誤解を与えてはタイヘン! そんな訳で、日本の高校が如何に『安全』かお手伝いしたいと思います!」


「わぉ…なんて親切なハイスク―ル・ガ―ル!『黒髪色白』ちょ~パ―フェクト! さてさて、折角なので甘えちゃいましょう!」


「はいな! 甘えちゃってください! レッツ・行こう!!」


 体育館の2基の巨大モニタ―には走る栞の後ろ姿。すっとした背筋。走る度に舞う黒髪が乱反射し、美しい光沢を生みだす。


 舞美の呼び掛けで、立ち上がっていた生徒は少しずつ席に着いていった。時折振り返る栞の横顔が、知らない女の子のように凛として美しかった。


 黙っていれば美人。何度も栞のことをそういったが、それは照れ隠しだ。黙っていようが、はしゃいでいようが栞は美人なのは間違いない。その時々で『美人』の種類が違うのだ。


 時におしとやか、時に活発。それだけのこと。オレは栞の歩幅と共に揺れ時に跳ね上がるスカ―トの裾に見惚れていた。壇上からの『キッと』睨む舞美の視線に気付きもしないで。


「わぁ、知りませんが――親切な…。ココは何をするところデスか?」


 うん、シルさん。ちゃんと名前呼んでますよ? 色々『グスグス』です。大丈夫ですか? そんなオレの思いを栞は完全にスル―。立ち止まって弓道場の説明をシルさんに始めた。


「そうデスか『弓』の練習をする場所ですか…ところでお詳しいデスネ、


「はい! 因みに私『弓道部員』ですから。あっ、よかったら本邦初公開、女子弓道部更衣室、凸りますか?」


「おぉ…それは大丈夫なヤツですか? 誰か『ポロリ』とかないですよね?」

「大丈夫です、みんな体育館ですし、部室で下着脱いだりしませんし!」


 ――からの、カメラ目線。そして三白眼のドヤ顔。


 そうか『やらかす』時が来たんだな。思う存分『ぶちかましたれ』オレは陰の功労者、ゲンさんとスズさんふたりと拳を合わせた。








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