第76話 破壊する癖。

 ネタバラシをしてしまえば、簡単なことだ。オレと栞は成宮と林田にわざとスマホを破壊させた。破壊しないと困る状況に追い込んだ。


『困る』と言うことはデ―タを破壊しないと困るということだ。つまり『身に覚えがある』ということ。そうじゃないと、生徒の私物であるスマホを破壊するなんて、普通じゃない。


 そう、オレは生徒と教師たちの前で、事務長派が普通じゃないことを、改めて証明する必要があった。因みにオレと栞のスマホは、初めから壊れているものを用意した。


 釣り好きの父さんが過去に水没させたスマホだ。じゃあ、今流れている音声デ―タはどうやって流しているか。それは栞でも、オレのでもないスマホから。もちろん、舞美のでもない。


 素知らぬ顔してスマホを操作するのは『スズさん』だった。舞美や浅倉さんに操作をさせていたら、万が一取り上げられないとも限らない。


 事務長派はスズさんを一度見ただけだ。そしてその時と全く違う髪型や服装をしていた。


 もちろん、栞がブル―トゥ―スを接続する『フリ』をしただけだ。それは事務長派にスマホ破壊という、普通じゃない行動を取らせるためだ。


 因みにスズさんが手に持っているスマホと巨大モニタ―は前もって接続済。モニタ―はこちらで準備したものだ。なので、タネさえわかれば――どうということない話だ。


 そしてこれ程の巨大モニタ―が何故、どうやって誰の手で体育館に設置されているのか、考えれば罠に誘い込まれていることは分かっていたはず。しかし、三人三様そこまで思考が回るほどの余裕を与えられてない。


 そして、タネも知らず、生徒たちの刺さる様な視線に晒された成宮と林田は更に混乱した。オレと栞のスマホを破壊しても止まらない、音声に。


 ザザザザッ…ザザザザッ…


『なんで、私が渡した映像デ―タで! なんで、あんな酷い加工するですか! 事務長さんが、斉藤君のにするって言うから――校長に話ししてくれるって言うから! 私、バス停の映像コピ―したのに……』


『何を言ってるんですか、三崎さん。私は君から渡されたままの状態で、ネットに上げました。もし、加工されてるとしたら――? 動画を加工して、んじゃないのか?』


『そんなこと、するわけないです!』


『それ? 私が斉藤君に直接言いましょうか? 三崎栞さんに渡された動画だったって。彼、信じると思いますよ、私のことを』


『そんなぁ……』

『お困りですか? では、こうしませんか。君は。その代わりに私は斉藤君に黙っておく。悪い話じゃないですよ?』


『そ、そんなの! じゃないですか!』

『何言ってるのですが、三崎さん。これはれっきとした、


 ザザザザッ…ザザザザッ……


 音声デ―タは一旦はここまで。しかし、狙い通り生徒や教師に与えたインパクトは激しかった。人によっては半信半疑だったろうと思う。舞美が流し続けてくれた動画を見たとしても。


 しかし、ここまでとなると――聞いたことのある監督と教師の声で、赤裸々に語られた事実と蛮行。生半可な事ではひっくり返すことが出来ないところまで、やってきていた。


 ざわめく体育館。小さな囁き声から段々、事務長派を露骨に批判する言葉が出始めた。それを見極めてオレたちは次なる手を打つ。


 オレは壇上の栞に頷いてみせた。栞も同じように何度か頷いてもう一度校長の側に行き、マイクを借りる。そして、これみよがしに栞はわざとマイクを『ハウリング』させて、生徒たちを黙らせた。


「質問のある方、どうぞ!」


 片手を大きく突き上げ、天を指差しながら栞は叫んだ。挙手したのはもちろん、浅倉さんだった。小走りでマイクを渡しに走る栞。さながらリポ―タ―だ。


「あの、浅倉と申します。そちらの林田先生と成宮監督に質問です。おふたりは今、生徒である斉藤君と三崎さんのスマホを破壊されました。如何なる理由なんでしょう? それともおふたりはでもお持ちなんですか?」


「おっと! お待ち下さい! 聞き捨てなりませんね!『』とはどういったことなのでしょう? まさかとは思いますが、今回私のかわいいスマホちゃん以外にもがあるのでしょうか!」


 栞はノリノリのリポ―タ―と化している。意外に向いているのかも知れない。普段黙っていたら、清楚系美少女なのだが、実はこっちが本物の栞だと誰も知らないだろう。


「先日、古堂ふるどう校長を取材した帰り、そちらのお二人にカメラを取り上げられまして、床に叩きつけられました」


「なんと!! それはまさに『報道の自由』に対する挑戦では!! 何か証拠になるようなモノありませんか!?」


河副かわぞえ事務長さんから『校内で起きた』なので弁償すると、これがその領収書です」


「ほうほう……えっ!?『537,900円』めちゃくちゃガチな金額じゃないですか! こ、校長! このことはご存知なのですか?」


「はい、事務長からは事故と報告を。しかし、防犯カメラによる確認をしたところ……浅倉さんが仰っしゃる通り『故意』によるものと判断し、先日謝罪しました」


 もちろん、事務長からの報告があるわけもなく、古堂ふるどう校長が我が家に来たときに、打ち合わせた内容に沿った受け答えだ。


 つまりは、事務長派一掃の為に古堂校長さえも『仕込み』なのだ。


 そこに、聞き覚えのある、あの『片言の日本語』が届いた。ここに彼女が居るわけではなく、設置された巨大モニタ―によるものだった。








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