第75話 ショ―タイムの始まり。

 全校集会は粛々と始められた。場所は体育館。臨時に巨大モニタ―が2台設置されていた。そこに資料等を映し出し、生徒に今回の経緯と今後の対応を説明する形だ。


 長時間になることを見越し、パイプ椅子が用意されていた。校長の説明は…残念ながら生徒にとって退屈なものだった。当たり前ではあるが、事実に基づいた内容だった。


 しかしながら、この程度の内容なら、多少興味がある生徒はネットなどで、既に手にしていた。


 退屈な生徒とピリピリとした空気を撒き散らす、サッカ―部監督の成宮と担任の林田の温度差は、傍目に見ても滑稽だった。


 事務長といえば、生徒たちが座っているパイプ椅子の遥か後方をウロウロと行ったり来たりで落ち着かない様子だ。


 余程小暮さんの挑発に乗った、精神的ダメ―ジが大きいと見える。じゃないと、この巨大モニタ―が調、気になるはずだ。


(暇ですね)


 オレたち3人は生徒用の席には混ざらずに、少し離れたところで座っていた。ちょうど報道関係者が陣取っている近くだ。


 栞のささやく声にオレは曖昧な返事をした。オレは視線の先にいる浅倉さんを見た、浅倉も肩をすくめで同じように曖昧な反応をする。こっちのタイミングに任せる、そんな感じだ。


(それじゃあ、取り掛かるか)


 オレは壇上の校長に合図を送った。校長が我が家に訪れた時合図を決めておいた。校長はすぐに理解し、行動に移した。


 オレが出した合図に栞はおもむろに立ち上がり、壇上の左右に設置されたモニタ―に近づき、スマホでブル―トゥ―スの設定を行った。もちろん2台共にだ。


 設定を終えた栞は、腕を大きく上げて『OKサイン』を出した。もちろん、生徒も教師もこの栞の挙動不審な動きを見逃すわけもなく、一挙手一投足を目で追った。


 それは事務長派も同じだ。しかも、目に見えて動揺している。彼らにとってオレたち3人はの中で、もっとも栞の存在が不気味なのだ。


 オレの退学が決まった日以降学校には登校せず、栞の両親からは『体調不良』で欠席の連絡をしていた。


 恐らくその事になんの疑いもなかったのだろう。それが、ある日突然総理官邸の会見場にオレたちと姿を現した。


 そしてそれから数日後、また姿を消したかと思えば――ある程度想定していただろうが、オレの復学と共に現れた。


 彼らにとって栞の存在は未知数だ。その未知数的存在が今全生徒の前で、壇上を行き来していた。そして、壇上の校長に軽く会釈をし、マイクを借りてひと言――


『ぽちっとな、と』


 スマホを操作した。そこにいる生徒と教師、誰も栞がなにをしょうとしているのかまったく理解が出来ていない。


 ザザザザ……


『―――ここはオレと林田先生に任せてくれ。オレたちが校長を説得する、それまで待ってくれないか?』


「こ、校長なんですか、こんな…おかしいじゃないですか! 本人から話も聞かないで退学なんて」


 ザザザザザザ………


 栞はありえないくらい『にぱっ!』とした笑顔で全校生徒を壇上から見た。退屈していた生徒はこれから起こる何らかの『ショ―タイム』を期待した。


 そして栞はスマホを手慣れた手付きで操作し、新たな音声デ―タ再生に入った。

 ザザザザッ…ザザザザッ…


『監督――娘さんの大学…薬科大学だって? 給料だけでなんとかなるんですか?』


『それは、だよ…』

『事務長に? しかし考えてみればサイアクな親父だよな、監督は。ヨソの娘さん事務長にいいように、その金で自分の娘大学通わせんだもん、サイテ―だ。ハハッ―』


『何言いやがる、林田くんだって、事務長から小遣いで外車乗り回して、事務長が飽きた女生徒までノッて、妊娠中の奥さん知ってんのかよ』


 ザザザザッ…


 体育館は静まり返った。静まり返ったというより、あまりの事に『ドン引き』になってる。噂がなかったわけじゃない。林田の派手な生活、まったく関わりがない女生徒に話し掛ける成宮。


 そんな点と点が生徒の中で繋がった。そしてその思考の繋がりを決定付けたのは、壇上に駆け上がった林田の行動だ。栞の手からスマホを奪い取り床に叩きつけた。


『これ…ガチなヤツじゃね?』


 どこかで囁いた男子生徒の声が生徒間に伝染するのに時間は掛からない。元々あった噂――林田の金遣いの荒さや、成宮が関わりのない女生徒と話す姿。しかも、威圧的な態度で。


 壇上の林田は成宮にアイコンタクトする。愚かにもどこか『ホッとした』表情で。自分が今、この瞬間に取った行動より、証拠を破壊できた安心感が勝ったのだろう。しかし―――


 ザザザザッ…ザザザザッ……


 オレはパイプ椅子から立ち上がり、これみよがしにスマホを操作した。


『監督、後は頼みますよ? 斉藤君のこと。僕は彼の担任なんで動きにくい』


『わかってる。大丈夫だ、の生徒は――残念だ、とか言えば何とかなる』


『しかし、斉藤君もとばっちりです。が片思いなんかしたせいで、邪魔だから退学させるなんて。まぁ、いつもの手口なんだけど。落ち込んだ女生徒に優しい顔して慰めて……しかし、あの事務長も―――』


 オレは血相を変えて駆け寄ってきた成宮監督にスマホを奪い取られ、担任の林田同様スマホを床に叩きつけたられた。


 しかし―――


 ザザザザッ…ザザザザッ…


 更に別の音声デ―タが再生にされようとしていた。他の教師たちは想定を遥かに上回る事態に固唾を呑むしかなかった。


 安心しろ。ショ―タイムは始まったばかりだ。






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