第67話 只々ぎゃふんと言わせたい。
「あの…二番煎じ感、パないんだけど」
そう言ってジェシカさんは自分の首元に手を回した。緩くふたつに束ねられた金色の髪を揺らしながら少しの間ごそごそしていた。
「また胸見てるしぃ――」
苦情がきた。いや、見てましたけど…全体的になんだけど。言い訳し辛いのはやっぱり胸に焦点を当ててたからか。仕方ない。これは動物的本能だ。動くものに目がいくんだ。
今たまたま目が胸にいったのは、胸が揺れてたから――うん。ほぼガン見だ。猫じゃらし的な? 無理があるか……
「これ、私から君に」
「どんぐりのネックレス…オレに?」
「だから。に、二番煎じ感パないって言ったでしょ…もう。あっ、でも私の方が3つ年上だから3年分ご利益あるはず! 少なくとも頭イイもん! お嬢様より! あと、そんなぽんぽん男子にあげるモンじゃないんだからね! 勘違いしてよね!」
「勘違いしないと、なんだ。これってふたつ着けるの…シルさんのと」
手のひらでコロコロさせながら、ジェシカさんのどんぐりのネックレスを見た。シルさんのとは少し違って、ブロンズが更に明るみを帯びている。これが3年の年季違いか。
「ふたつ一緒に着ける〜〜!? 君、デリカシ―ゼロでしょ!? ゼロ・デリカシ―でしょ! 君、日本人で知んから教えたげるけど、ラ―スロじゃ今のって『二股』発言なのよ! ふたつもどんぐりのネックレスしてるなんて、モテ自慢!! ん? 待て待て、私」
「どうしました?」
「いやいや、身近な人のどんぐりって、割と覚えてたりするんです。デザイン少ずつ違ってて。だから、どんぐりみて『お嬢様』のだとわかるわけてす」
「デザインが違うんだ」
「ちょっとね、光沢とか。そんな訳で『お嬢様』のがわかるってことは―」
「ジェシ―のもシルさんにはわかると?」
「そうなんです!」
ジェシカさんは意味深にニンマリした。いや…嫌な予感しかしない。
「何気なく〜〜順ちゃんがしてるわけですよ、ネックレスふたつ! お嬢様たら『あれ!?』になるわけ! でもお嬢様たら順ちゃんの前では『何枚も』猫かぶってるから『わぉ…ジュンイチさん、私の目の錯覚でしょうカ、ネックレスがふたつに見えマス!』とか!!」
「ジェシ―…」
「まぁ、聞いてください!『おぉ…コレはジェシカのデス、ジュンイチさん。どこかで拾われたのデスカ?』みたいな? いや、拾ったネックレスしないっての! 飽くまでも現実逃避するはずです!!」
「ジェシ―…いくらなんでもそれは…」
「知らないからです! 最近、お嬢様順ちゃんに会えないから、ありえないくらいネチネチしてるんです! いいでしょ! 少しくらい仕返ししたって!」
などと言いながらも、それはそれで仲いいんだなぁ、と無理やり思うようにした。しかし、それはちょっと無理があった。
「そうだ! 順ちゃん、ネックレスは
1つのパタ―ン! ふと目にしたお嬢様の目に映るのは私のネックレス、みたいな?」
ジェシカさんは『飛び級』までした頭脳を、シルさんを『如何にギャフン』と言わせるかにフル回転していた。
□□□□
『明日だよね』
ジェシカさんの言葉を噛み締めながらオレは自宅のドアを開けた。泊まりこそしないものの、浅倉さんと撮影クル―の皆さんは割かし我が家にいる時間が多い。メディア担当というのと、スク―プを見逃さないという両面からだ。
栞は相変わらず我が家で預かっていて、たまに出てくる『マイたん』と何故か必ずバトルになる。まぁ、バトルと言うよりお互いチクチク言い合う程度たが。
どうもヤンデレとスト―カ―は相容れないものがあるらしい。そんなことを考えながら靴を脱ごうとして、気付いた。見慣れない女性物の靴。
舞美と栞はスニ―カ―だ。浅倉さんもフットワ―クが必要なのかスニ―カ―。浅倉さんトコの『すず』さんもスニ―カ―。因みに浅倉さんは取材の関係でパンプスを車の中に置いていた。
母さんはパンプスを履いていたが、この女性物の靴は記憶の中の誰の物でもない。濃い茶色の踵の低いジミな靴だが、よくわからないものの高級そうには見てた。
「誰かお客さん?」
呑気なオレの声とは対象的にリビングは静まり返っていた。何となく気まずい空気の中床に正座する女の人……
「どなた?」
後ろ姿しか見えないということもあるが、まったく想像が付かない。年代的に親戚の誰でもない。祖父母世代でもなければ親世代よりまだ、上だ。
「兄さん……こちらは…」
ん? マイたんが出てきている…いや、別にいいんだけど、何でだ? 前ほどは疲れやすくないようだが、それでもオレが居ないのに出てくることは滅多にない。
『
「
いや、わかんない。わかんないというか、初っ端ほぼ土下座スタ―トされたらちょっと、どうしていいかわからない。マイたんが出てきてるし、場の空気が重い。ただ事じゃないのは何となくわかるけど……
「順一、この方…アンタの学校の―校長…
あまりにピ―ンと来てないオレに浅倉さんが助け舟を出してくれた。そういや、入学式で見たような……でもあのときはもっと自信に満ちてたっていうか……
まぁ、旦那の事務長の悪事が表に出たら仕方ないか、こうなるよなぁ…オレは自分のされたことを、忘れて同情した。
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