第62話 潮の流れ。
「順一さまは、お優しい」
髪を整えながらジェシカさんは『クスリっ』と笑った。その笑い方が記憶にあるどのジェシカさんとも違った。
「あの、ジェシカさん。その『順一さま』ってのはちょっと…」
「はい。私もそう感じてます。でもですね、考えてみてください。この呼び方だから距離感があるんです。つまり―」
「次の『シチュエ―ション・ト―ク』を盛り上げるためですか?」
「はい。なので本来なら今の
「わかりました。じゃあ…次回までは」
「はい。全部なかったことです。普通に今まで通り業務的な関係になります。じゃないと―」
「発展して目的が変わるわけですね」
「はい! あっ、因みに私、今油断して腕組み掛けました。順一さまの。完全に妄想『フォ―リン・ラブ』です『バ―チャル・ラブ』です! そんな訳で…私、帰りますね。大使館。あっ、どうしましょ…」
「どうしました?」
「いや、妄想なはずなんですが。順一さまと離れるのが寂しいと言いましょうか…正直泣いちゃいそう」
「あっ、オレも今めっちゃかわいいって…思ってます」
「あの…私からの提案なんですけど」
「はい」
「キスくらい、よくないですか。しても」
「オレもなんか、そう思ってました」
「キスって言っても『たかが、ベロチュウ』ですよね」
「はい、たかがです。たった小一時間くらいのことですから」
「そうですよね、チュッチュするだけですし…」
「………」
「私たち…普通にモラル崩壊してますね、今。何だかんだと…言い訳つけて最後まで行っちゃいますよ」
「残念ながら…一片の否定も出来ません」
「やっぱり、戻りますね。なのでお別れのキスを――…あっ」
そして、ふたりは何だかんだと言い訳をつけて、明け方近くまで、こんな無限ル―プをする羽目に。
そして他のメンバ―は、オレとジェシカさんが作戦会議をしていると、思い込み…入ってもいいはずの邪魔もなく、擬似恋愛気分に浸ってしまった。
最終、次のお休みには絶対ふたりで会おうね、みたいな悲壮感溢れる約束と共にジェシカさんは大使館にもどった。
□□□□
総理官邸。昨夜大仕事を終えた
つまりは解散総選挙を経て、新たな体制になるまで、彼らは彼らでやるべきことは、やれるのだ。
例え総選挙で惨敗し最悪野党に成り下がったとしても、今下地さえ作っておけば、必ず日本のためになるという思いが彼らにはあった。
それに引き換え野党に政権を担う力もビジョンの欠片もない。
欠片もない上に、伏見田と嶋津のタイミングで振られたサイコロ。伏見田率いる与党とは比べられない程に混乱していた。
混乱をしつつも、与党を攻撃をしなければならない。完全にキャパオ―バ―に陥っていた、
しかも、攻撃をすればするほど野党は不利になった。国民の信を問う。伏見田たちの思惑は完全に政府与党に有利に働いた『ラ―スロ公国第三皇女襲撃事件』での体たらく。
意識高い系国民は知っていた。アメリカから売り付けられている軍事AIがあまりに程度が低いこと。
そのため日本がスパイ天国になっていること。そのことに憤りを感じていた国民は――特にネット民は伏見田のぶっちゃけ解散に狂喜乱舞しないわけがない。
完全な『伏見田フィ―バ―』なのだ。
そんな現状なのだが、考えのない野党は英断的行動と高い評価を得ている『伏見田、嶋津政権』を攻撃するしかなく、攻撃すればするほど、野党の薄っぺらい理想は『政権運営』不可能の烙印を押された。
巷では大物の野党議員までも落選予想が囁かれた。
そして政府の判断の正しさを裏付けするように――初期防衛用にラ―スロ公国より提供されたAIが結果を叩き出した。
日本中に張り巡らされた防犯カメラから中国を中心とした『中華友好経済圏連邦』通称『
朝からテレビの映像は『
初期防衛用のまさに『サンプル』のようなAIですら、導入後僅か半日でこれだけの成果を出していた。
しかし、これは『ラ―スロ公国』のAIが優れているだけではない『
先日解析された『モザイク・ミスト』
『モザイク・ミスト』とは防犯カメラなどに映り込まないようデジタル的な妨害が自動にされる技術。
『解析された』とは『モザイク・ミスト』の周波数が解析されたことを意味する。
周波数は国によって異なり、解析されたモザイク・ミストを使い続けるのは
エ―ジェント――スパイとし不法入国をしている彼らを拘束する理由は難しくなかった。
偽装パスポ―トや武器、違法薬物の所持。偽造通貨。彼らの住処からは罪に問えるものはいくらでも出てきた。
拘束されたエ―ジェント。
この『デジタル・ビ―コン』により位置情報が簡単に把握さる。そのため
再び不法入国しょうものなら、たちどころにバレる。
エ―ジェントとしては廃業やむ無し、しかも血液中に仕込まれた『デジタル・ビ―コン』の取り除きはラ―スロ公国の技術なくして不可能に近かった。
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